休日や仕事の合間など、さまざまなシーンで利用されるカフェ。多くのカフェチェーンがしのぎを削るなか、今注目を浴びているのが、シャノアールが展開するカフェ・ベローチェだ。
6月27日、公益財団法人日本生産性本部のサービス産業生産性協議会が発表した「2018年度日本版顧客満足度指数」で、スターバックス(ランキング圏外)やドトールを抑え、ベローチェがカフェ部門で顧客満足度第1位に選ばれたのである。
同指数では、顧客の期待度を表す「顧客期待」、全体的な品質評価を表す「知覚品質」、コストパフォーマンスを表す「知覚価値」、利用した顧客が他人におすすめしたいかを表す「推奨意向」、再び利用したいかを表す「ロイヤルティ」の5つの指標によって企業やブランドを評価し、総合的な顧客満足度を算出している。
今回ベローチェは、このうちの「知覚価値」と「ロイヤルティ」で1位を獲得し、総合的な顧客満足度でも1位に輝いた。つまり顧客からは「コスパが高くて継続して利用したいカフェ」だと認識されているということになる。
実際ベローチェは低価格路線をとっており、ドトールなら220円(税込・以下同)、スタバなら302円する最小サイズのホットコーヒーを200円で提供するなど、業界最安値を実現している。そのためコスパが高いと評価されるのは納得であるが、ではもうひとつの要素「ロイヤルティ」への高評価は、一体どこから生まれているのだろうか。
そこで今回、都内のベローチェを実際に巡り、店内の様子を観察。店内の客層や注文内容、客の滞在時間や何をしているかをリサーチし、なぜベローチェが顧客満足度1位に輝いたのかを分析してみた。
足を運ぶのは中野店(東京都中野区)、渋谷二丁目店(渋谷区)、南新宿店(渋谷区)の3店舗。下町の雰囲気が残る中野エリア、若者が多い渋谷エリア、オフィス街のある新宿エリアと、それぞれ客層が異なると考えられる店舗を訪問し、調査する。
中野店:だいたいの客が休憩やヒマつぶしのために利用
9月初旬の平日。最初に訪れたのは、JR中野駅北口から徒歩2分の場所にあるカフェ・ベローチェ中野店」。9割以上の店舗で喫煙可能なベローチェでは珍しい全席禁煙の店舗だ。
店内は全115席と比較的広めだが、訪れた13時時点で席はおよそ7割程度が埋まっていた。この日は猛暑を引きずるような暑さだったため、アイスコーヒー(210円)を注文して、店内の全体が見えやすい中央の席に座った。
客層としては、ビジネスパーソンやショップ店員などの仕事組が2割、休日組が8割といったところ。基本的に男女の割合は同じくらいなのだが、お年寄りの姿が比較的多い。また、7割程度が一人客であった。
意外だったのが、ベローチェはフリーWi-Fiを開放しているにもかかわらず、パソコンを開いて作業する、いわゆるノマドワーカーがほとんどいなかったことだ。というより、スマホをいじる人や本を読む人、そして雑談している人がほとんどで、仕事をしているらしき人が少なかったようにも思える。
注文内容に関しては、ほとんどの人がドリンク1杯のみで、特に追加注文などもなし。それもアイスコーヒーやアイスティー(210円)、アイスカフェオーレ(240円)などばかりで、コーヒーフロート(280円)やオレンジジュース(250円)のような甘めのドリンクを頼む人はほぼいなかった。
次に滞在時間。仕事組は予定が詰まっているのだろう、30分~1時間程度で退店する客がほとんど。一方の休日組は、1時間以上滞在する人が圧倒的に多く、なかには2時間以上滞在している人もちらほら見られた。
ひとつ印象的だったのが、コーヒーゼリー(310円)のみを注文するお年寄りが何人かいたことだ。調べてみると、「ベローチェのコーヒーゼリーは美味しすぎる」と評判の商品で、これを食べるためにベローチェに足を運ぶ人も少なくないそうだ。あのお年寄りたちは、おそらくベローチェのヘビーユーザーなのだろう。
渋谷二丁目店:ノマド組と喫煙組が全体の8割を占める
次に訪れたのは、JR渋谷駅と東京メトロ表参道駅のちょうど中間地点に位置する、「カフェ・ベローチェ渋谷二丁目店」。オシャレ街に挟まれたベローチェには、一体どのような人が訪れるのだろうか。
店内は全65席の少しこぢんまりとしたつくりで、入り口から向かって奥側、全体のおよそ3分の1程度が喫煙席となっている。来店した15時時点での席の埋まり具合は6割程度。アイスカフェオーレを注文し、喫煙ルームの入り口横に着席した。
ベローチェはパーテーションで喫煙席と禁煙席を分割しており、入り口部分にドアはなく常に開放状態となっている。その代わり風の流れをつくることで、煙が漏れないようにしているようだ。実際、喫煙ルーム入り口の真横に2時間滞在しても、タバコの臭いが気になることはなかった。
さて、客層は若者やビジネスパーソンが中心で、中野店と比較すれば全体的に若め。男女比は同じくらいだが、喫煙席を利用するのは9割5分がビジネスマンだった。また、ほとんどは一人客で、複数人のグループは大体が喫煙席を利用する男性であった。オフィス内全面禁煙の流れに追われ、ベローチェにタバコを吸いに来る人も多いのだろう。
こちらの店ではノマドワーカーの比率が高く、4割程度を占めていた。喫煙組とノマド組が全体の8割ぐらいで、むしろヒマつぶし組のほうが少数派だったのが興味深い。
一方、注文内容に関しては中野店と同じように、ドリンク1杯の人がほとんどを占めていた。違うところといえば、甘めのドリンクを頼む人がちらほらといたところくらいだろう。
滞在時間に関しては、喫煙組が30分、ヒマつぶし組が30分~1時間、ノマド組が1時間以上といったところ。
南新宿店:ほぼ全員ビジネスパーソン、作業目的で来店
最後に訪れたのが、JR新宿駅南口から徒歩4分のところにある「カフェ・ベローチェ南新宿店」。2階建てで全151席と広く、2階の奥側半分が喫煙席になっている店舗だ。
訪れた19時時点での席の埋まり具合は4割程度。こちらではアイスカフェラテ(270円)を注文し、2階の中央あたりの席に座る。余談ながら、カフェオレとカフェラテは混同されがちだが、まったく別の飲み物。大抵のカフェはどちらか片方しか扱っていないため、どちらもラインアップしているベローチェはなかなか稀有な存在だ。やるじゃないか……と思わず唸ってしまった。
夜の新宿、それも歌舞伎町とは正反対の南口方面なだけあって、客層はほぼ全員がビジネスパーソンで、そのうち6割程度が複数人のグループ。パソコンでの作業や資格の勉強、仕事の打ち合わせ、外国人との英会話、ビジネス系セミナーへの勧誘など、何かしら目的があって訪れている人ばかりであった。
注文内容は他2店舗と同じようにドリンク1杯の人がほとんどで、追加注文をする様子は特に見られなかった。
滞在時間に関しては、ほぼ全員が1時間~1時間半程度といったところ。新宿駅近くには無料喫煙所が複数あるためか、渋谷二丁目店のようにタバコを数本吸ってパッと帰るような人は見受けられなかった。
顧客満足度第1位の理由は“日常使いにちょうどいいから”?
以上の3店舗を観察したうえでの分析を挙げていこう。
まず、新作フラペチーノを求めてスタバに来店するように、ベローチェならではのメニューを求めて来店する客はほとんどいない、ということ。どちらかというと、客は休憩や作業をするためのスペースとして利用している印象だった。
次に挙げたいのが、客層に偏りがない、ということだ。もちろん場所や時間帯によってメイン客層は変化してくるわけだが、全店舗に共通して多い層、少ない層というのは、特に見受けられなかった。
たとえば、若い女性ばかりのオシャレなカフェは男性にとって入りづらいだろうし、反対に男性ばかりの居酒屋は女性にとって入りづらいだろう。そういう“入りづらさ”を感じる人が誰もいないというのは、ベローチェが持つ魅力なのではないか。
そしてもうひとつ、利用客にカップルらしき男女ペアがほとんどいなかったことも挙げておきたい。
これはもちろん、ベローチェはデートに使えないほどダサい、という意味ではない。いい意味で雰囲気が緩いのだ。利用客もみなリラックスしながら各々のやりたいことをやっているような状態で、デートのような緊張感がそぐわない、肩肘を張ることのない空間は確かに心地のいいものであった。この気楽さも、ベローチェの魅力なのだろう。
以上のような「誰も居心地の悪さを感じることのなく、リラックスできる空間であること」が、多くの顧客がベローチェのロイヤルティを高く評価した理由ではないだろうか。
スタバのようにわざわざ行きたい理由があるわけではないが、コスパが高く居心地がいいため、作業やヒマつぶしといった日常のシーンの中で使いやすいカフェであること。それが今回、ベローチェが顧客満足度第1位に選ばれた理由なのだろう。
(文・取材=A4studio)