今年10月末、ハウス食品グループ本社がココイチの愛称で知られるカレー専門店「CoCo壱番屋」を展開する壱番屋に対してTOB(株式公開買い付け)を行い、子会社化するというニュースが流れた。ハウスはすでに壱番屋の発行済株式の19.55%を保有しており、TOBによって51%まで追加取得し、取得総額は約300億円に達するとのこと。
さてはハウスが外食市場にまで食指を伸ばし、敵対的な買収を行ったのでは――と思った方も少なくないかもしれないが、むしろ買収の提案は壱番屋のオーナーである宗次徳二特別顧問から持ちかけられている。一説に220億円ともいわれる気になる譲渡益の使い道は「音楽への社会貢献活動資金の調達」なのだそうで、今どき珍しい美談にも類するエピソードといえよう。
今回の一連の報道で、筆者自身も初めて知ったのだが、宗次氏の人生は文字通りの波瀾万丈。生後間もなく児童養護施設に預けられ、3歳で養子に引き取られたものの、成人するまでは文字通り極貧の日々だった。20代の半ばで結婚して2年目の妻と喫茶店を開店。一日3~4時間の睡眠時間で働きづめというハードワークの甲斐あって、ココイチはギネスも認める世界一のカレーチェーンとなった。現在は完全に現役から退き、音楽やスポーツの振興、福祉施設やホームレスへの支援に専念している。外食の歴史をつぶさに見てきたつもりでいた筆者であるが、これほどまでに清廉な経営者がいたことを今まで知らなかったとは、不明を恥じるほかない。
「日本式カレー輸出」の死角
さて、「幸せな結婚」ともいえるハウスと壱番屋の今後であるが、各種報道によれば海外展開を最大の柱に据えるようである。壱番屋はすでにハウスと共同して、北京や上海など大都市や沿海部に約50店を出店している。「日本式カレー」をまずはレストランで根づかせ、その後に家庭向けのルウを販売していく戦略を進め、2017年までに100店に増やす方針という。また壱番屋はハウスの共同展開とは別に東南アジアでも積極展開を進めていて、海外全体の店舗は約150を数える。今夏のミラノ博でも日本館に出店し、確かな手ごたえを得ている。
日本経済新聞の報道によれば、ハウスは壱番屋の海外店舗をさらに増やし、メーカーとしても本格進出してルウなどの海外販売を拡大したい考え。同社は海外売上高比率を14年度の10%から17年度に15%に高める計画を掲げてきたが、壱番屋の子会社化によりさらに引き上げる可能性があるという。
一見して上り調子とも思われる「日本式カレーの輸出」に、果たして死角はないのだろうか。