消費者が企業活動に抱く疑問を考察するサイト ビジネスジャーナル ⁄ Business Journal
最大のネックは、まさに「日本式」という点にある。海外で暮らしたことのある方ならば誰でも知っていることだが、日本人がふつうに食べているカレーは、日本から一歩踏み出せば、日系のレストランを除いてまったく見ることはできない。インドなど南アジアのカレーはもちろん、アジアや中東にもカレーと似た食べものはあるが、日本式カレーとは似ても似つかぬ代物である。
考えてみれば、日本のカレーの材料は、「おふくろの味」の代名詞ともいえる「肉じゃが」とほぼ同じだ。やや乱暴にいえば、肉じゃがにカレーのルウを足して仕上げたものともいえる。すなわち、材料的、味覚的に、日本式カレーとはこよなく日本的な食べものなのである。小さい頃から慣れ親しんできたカレーを、私たち日本人が美味しいと思うのはごく自然のことで、それゆえに「外国人」が肯定的に受け止める保証はない。いや、「食」は本来的に保守的な営みであることを考えれば、むしろ否定的であって当然である。
日本の経営的な強みこそ資産
外食産業で国際的に成功した企業は、一般的に思われている以上にまれで、まずはマクドナルド、そして近年ではスターバックスコーヒー、あとはせいぜいケンタッキーフライドチキンといったあたりで、「文化」というよりは「文明」に近いファストフード企業群である。
その一方でより「文化」に近いテーブルサービスレストランの成功例は、世界的に皆無といって差し支えない。近年、日本食の海外展開の成功例が喧伝されてはいるが、いまだビッグビジネスというにはほど遠い。自動車や家電製品などの輸出と比べて天地ほどの開きがあり、食という営みがいかに保守的であるかの証左といえる。
むしろ筆者は前出・日経記事で、ハウスがレストラン展開やルウの販売に伴い、現地工場の建設を視野に入れているという動きに注目した。日本の外食産業における、セントラルキッチンをベースとした品質管理、チェーンオペレーションシステムの完成度は、そこで働く人々のモラルの高さも含め、世界に冠たるものであると考える。経営の優劣は味覚と違って、誰にでも一目瞭然である。
繰り返しになるが、「食」の輸出は困難であって当然で、「自分たちが美味しいと思うから、外国でも受けるに違いない」というのは、無邪気な幻想に過ぎない。実は、TQC、経営システム、従業員モラルといった日本の経営的な強みこそ、まずは輸出に値する資産ではないかと考える。
「なるほど、こういう素晴らしい経営のできる国の食べものだから、美味しいのか」と思う外国人が増えれば、それこそが真の勝利ではあるまいか。
(文=横川潤/文教大学准教授、食評論家)
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