こうした内容に、新聞各紙も社説で「1億総活躍対策 財源と人材をどう確保する」(読売新聞)、「一億総活躍、見えぬ実現性 介護離職・出生率など壁」(日本経済新聞)、「1億総活躍対策 裏付けなしの数値目標」(北海道新聞)と手厳しい評価が相次いだ。公共放送NHKも「一億総活躍社会実現へ 恒久財源確保が課題」と懐疑的なトーンで報じている。
苦い薬の必要性に言及せず
何より欠けているのは、かなり苦い薬を飲む覚悟がなければ、新アベノミクスが掲げた命題は解決できない、という事実を真摯に国民に語りかける姿勢である。
例えば、GDP600兆円という第1の矢の的。達成期限は相変わらず明確でないが、仮に2020年度とすれば、年率1%を割り込んでいる潜在成長率を3倍以上の3%に押し上げることが必要だ。安倍政権は発足以来先送りし続けているが、仮に既得権を持つ企業の反対を抑えて大胆な成長戦略(規制改革)を進められたとしても、容易に実現できない数字である。にもかかわらず、どのような施策を打つのか、まったく具体策を示していない。
さらに不可解なのが、新・第2の矢の「夢をつむぐ子育て支援」で「希望出生率1.8」が実現できるかのように記していることだ。
全国民が結婚し、希望出生率を現行の1.4前後から1.8に引き上げられたとしても、夫婦2人に対して1.8人しか子供をつくらないのだから、人口は減り続ける。これでは、「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策」も文中で認めているように、50年後に「8000万人余り」になる人口を1億人に押し戻して、一億総活躍社会を構築することは不可能だ。
実際、老舗シンクタンクの日本経済研究センターが昨年2月にまとめた「長期経済予測 『2050年への構想』最終報告」はこの問題を真正面から扱い、30年かけて出生率を2近辺まで引き上げることに成功したフランスの例をもとに、日本でも給付や保育助成を毎年7~8兆円(GDPの1.5%に相当)拡充したうえで、出生率を50年までに1.4から1.8まで引き上げるとともに、累計で1000万人を超える外国人移民を受け入れることによって、かろうじて人口を9000万人で安定させることができると試算している。
安倍政権は、今回の取りまとめをあくまでも「緊急に実施すべき対策」としている。新・第2の矢で必要な子育て支援はもちろん、新・第3の矢でも不可欠な巨額の恒久財源をどのように確保するか、ひと言も言及していない。