農業対策
また、補正予算案には、TPPの国内対策として0.3兆円程度を計上、畜産や野菜生産の競争力強化を促す基金をつくるという。TPP対策は、まだ入り口に立ったばかりで総合的な評価は下せないが、ウルグアイラウンドの際には、当初8年間で3.5兆円とされた農業対策費が政治判断で6.01兆円に膨らんだ前例もある。
当時、日本は米の生産・消費量(1000万トン)の8%にあたる80万トンを関税ゼロで輸入することを受け入れたが、財政負担で同量を家畜のエサや輸出用として処理することになっており、国内農業への影響はないと目されていたという。それにもかかわらず、政治主導で巨額のバラマキが行われ、温泉ランドの建設などに血税が費やされた例もあった。政府には、1月から始まる通常国会の補正予算案の審議で、こうしたデタラメな農業対策費が再び盛り込まれることがないよう取り組んでもらう必要がある。
求められる「賢い歳出」
安倍内閣は、政権奪還直後に編成した12年度補正予算で、5.2兆円の新規国債を発行して10.2兆円を歳出した過去がある。わかりやすくいえば、安易に借金を膨らませて大盤振る舞いをやったのだ。それに比べれば、今回はかなり抑制の効いた補正予算案といってよいだろう。
過去2年余り、日銀が異次元緩和で流動性を供給すべく市場から大量に日本国債を買い入れているため、国債のリスクが市場価格に反映されにくくなっている。しかし、海外では、格付け機関による日本国債の格下げが相次いでいる。昨年12月、ムーディーズが従来より1段引き下げて、最上位から数えて5番目にあたる「A1」にしたのに続き、今年9月にはS&P(スタンダード・アンド・プアーズ)が「シングルAプラス」に引き下げた。いずれも、日本の財政再建の遅れを懸念しての措置だった。
これ以上、日本の財政や国債に対する信認が損なわれては大変だ。そうしたなかで、大盤振る舞いの誘惑にとらわれることなく、抑制の効いたものとなった補正予算案は評価に値する。これからも乏しい予算を賢く歳出する財政方針を貫いてもらいたい。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)