今、居酒屋業界は新たな局面を迎えている。象徴的なのは、国産地鶏が売りの「塚田農場」や、新鮮な魚介類をリーズナブルな価格で提供する「磯丸水産」などが業績を伸ばす一方、「和民」などを展開する最大手のワタミグループが2015年4~6月決算で15億4200万円の純損失(外食事業の損失は5億300万円)を計上したことだろう。格安居酒屋が人気を集める中で、従来の居酒屋チェーンは苦戦を強いられているようだ。
そのなかでも、現在、破竹の勢いで業績を伸ばしている居酒屋チェーンが「鳥貴族」である。同店の特徴は、なんといっても「全商品280円均一」という価格設定だろう。
08年のリーマン・ショック以降、大手居酒屋チェーンが低価格・均一路線に乗り出し、ワタミも10年8月に全商品250円の激安店を出店したが、失敗して撤退した。
また、ワタミは昨年だけで和民など系列店を100店以上閉鎖したが、鳥貴族は毎週1~2店舗のハイペースで新店をオープンさせている。居酒屋業界は、今や鳥貴族の一人勝ちといっていい状態にあるのだ。あまたのライバルを蹴落とし、鳥貴族がここまで成長した理由はどこにあるのだろうか? その理由を探るべく、鳥貴族の新規オープン店に足を運んでみた。
冷たい雨の中、開店前から30人以上の行列
向かったのは、11月下旬にオープンしたばかりの千葉県柏市の柏東口店だ。もともと安値で知られる鳥貴族だが、オープン初日はドリンク全品99円と、さらに価格破壊が起こる。
そのため、平日だったにもかかわらず、開店30分前にはすでに10人以上の行列ができていた。冷たい雨が降る中、1杯99円の恩恵にあずかるために、みな黙々と列をなしている。行列が30人を超えた頃にめでたくオープンし、席に案内された。
内装は、丸太や自然な無垢材で統一されており、いわゆる“ガード下”の焼き鳥屋とは印象が異なる。客層は、半数以上が20代の若者で女性客も多い。また、メニューは思いのほか種類が少なく、メインの「焼きとり」は31種類と豊富だが、前菜、ご飯もの、デザートを含めても合計40品に満たない。
メニュー表はドリンク用とフード用が1枚ずつあるのみで、よくいえば非常にシンプルだ。ほかの居酒屋チェーンの場合、グランドメニューに加え、季節のメニューや本日のオススメなど、4~5種類のメニュー表が用意されていることも多いが、このシンプルさも鳥貴族の特徴といえる。