メニューを見ないで次々に注文してしまう仕組み
では、肝心の味はどうだろうか。鳥貴族は国産の食材にこだわり、焼き鳥に自家製のタレを使うなどの工夫で、高いクオリティを保っているとされている。そこで、まずは看板メニューの「もも貴族焼」を頼んでみると、15センチ以上はありそうな焼き鳥が2本乗った皿が運ばれてきた。熱々の鶏肉はほどよい柔らかさで、噛むたびに肉の旨味と甘めのタレが口の中に広がる。「すごくおいしい」というと言い過ぎだが、その価格を考えれば及第点といえる。
ほかの串焼きやサイドメニューも外れがなく、直接釜から炊き上げる「とり釜飯」や「トリキの唐揚」など、売れ筋の商品はどれも280円にしてはかなりのボリューム感だ。
気がつけば「ささみ」「むね肉チーズフォンデュ串」「むね貴族焼」「冷やしトマト」「ビール」「サングリア」……と、たがが外れたように注文していた。全品280円なので、メニュー表を見ることはほぼない。メニュー表がシンプルなのは、均一価格という事情もあるだろう。最初はそのシンプルさに少々拍子抜けしたが、むしろ、メニュー表を見て選ぶ手間が省けるメリットも感じた。
また、鳥貴族には、ほかの居酒屋チェーンのような数百円の「お通し」もない。結局、2時間滞在してドリンクを8杯、食事は11皿を注文した。これで会計は2人で4170円(税込)という安さである。1品ごとの料金を気にせず食べることができるので、かなり「お得感」がある。
実は、ほかの居酒屋チェーンと変わらない客単価
しかし、重い腹を抱えて駅に向かいながら、あらためて考えてみると、「鳥貴族は本当に安いといえるのか?」という疑問が浮かんだ。もし、ドリンクが99円ではなく、通常価格の280円だったとしたら、今回の会計は6000円近くになっただろう。
実際に店舗に行ってわかったことだが、鳥貴族の料理はメインの「焼きとり」からキャベツ盛りに至るまで、総じて塩分が強めで酒類の注文が増えやすい仕組みになっている。そして、仮に客単価が3000円前後であれば、ほかの居酒屋チェーンとほとんど変わらない。
ただ、料理に外れは少なく、コストパフォーマンスは高いといえる。「鳥貴族にリピーターが多い」というのも、わかる気がした。
ちなみに、今回訪れた柏東口店は、最寄りのJR常磐線・柏駅から歩いて4分ほどの距離にある。同店に限らず、鳥貴族の店舗の多くは、賃料を低く抑えるために駅から少し離れたところにあるという。
当たり前の話だが、飲食店は駅から出てすぐ目に留まる場所にないと、“飛び込み”の客は少なくなる。それでも鳥貴族の業績が好調なのは、「あえて鳥貴族を選ぶ」という固定客やリピーターがいるからだろう。ただ、このやり方には「固定客が離れると、利益を上げにくい」というデメリットもある。トレンドの移り変わりが激しい居酒屋業界で、鳥貴族はどこまで成長することができるだろうか。
(文=松原麻依/清談社)