●裁判官も納得?
では、何が裁判官を納得させたのか? 具体的には以下の通りである。
(1)「職種別採用」を行い、「職務給」で運用する
これは、日本式の「総合職採用」を行い、「職能給」で運用するのとは真逆のやり方だ。すなわち、採用時に業務内容を明示し、「この仕事ができる能力を持っている人を採用する」として、業績に応じた待遇と、諸条件なども細かく書面化して説明し、合意を取っておくのだ。その上で「能力が足りなかった」という判断となれば、問題になりにくい。
(2)十分な「退職パッケージ」と「支援プログラム」を準備する
対象者に対してなんのサポートもない状態での退職勧奨は「強要」と判断される可能性があるが、「業績が芳しくないこの状況のままでは問題がある」と説明責任を果たし、「改善するための再教育プログラム」等が存在し、それを受ける機会があれば、企業側として「回避努力」をしたことになるのだ。これは、「割増退職金」や「再就職支援」といった退職支援プログラムを会社側が用意することでも同様の判断となる。
(3)説明責任を果たす
上記(1)(2)といった諸制度、諸条件が揃った上で、対象社員に対して説明がなされれば問題ない。具体的には、
「会社の経営環境」
「当該社員の業績」
「当該業績が、所属部署や他メンバーに与える影響」
「在籍し続ける場合のデメリット」(引き続きプレッシャーが与えられるぞ、など)
「退職する場合のメリット」(今なら充実した退職者支援を受けられるぞ、など)
といった情報を伝え、一定の検討期間を設け、意思確認をする、という手続きを踏むことである。
結局は、会社として上記(1)~(3)のような仕組みがあれば、いくら執拗な退職勧奨を行ったとしても、違法とはなりにくいのだ。退職勧奨の場に同席していなかった裁判官にとって、会社からどんな説得が行われたかは知る由がないし、それによって対象社員がどれほどの精神的苦痛を得たかは判断が難しい。
判断材料となるのは「どこまで会社が退職回避策を講じていたか?」という事実次第なのである。それさえあれば、会社側がかなり執拗に退職を迫ったとしても、「がんばって解雇を回避した」し、「正当な退職勧奨の一環」であり、「解雇は根拠のある正当なものだ」と主張できてしまうのである。
●退職勧奨に臨む社員側の心得とは?
このような退職勧奨を受ける社員側にとって、取れる態度は次の2つだ。
(1)いずれ辞めるのなら、条件が良いうちにサッサと合意して退職願にサインしてしまう
(2)「会社のやり方は違法だ!」と徹底的に争う
多くは「外資系など、このようなもの」と割り切って前者の道を選ぶ。しかし残念ながら後者の場合、裁判に金も時間もエネルギーも費やすし、勝ったとしても賠償金は弁護士報酬に消え、会社にいられるのも次のリストラまでのハナシだ。結局、会社の方針に沿った結果になってしまうことになる可能性が高い。「それでもやる!」という場合は、勧奨までの経緯を子細にわたってメモし、その様子をICレコーダーなどで録音して違法性の記録としておくことだ。
裁判では原告が証拠を集めなければならない決まりだから、証拠がなくてはどうにもならない。
●操作される人事制度、スルーするメディア
限りなくブラックに近いグレーゾーンで人事制度を運用している同社であるが、実際に勤務する社員からは「実際にはかなり恣意的に運用され、『フェアな職務給』という宣伝とはほど遠い」という声も聞こえてくる。
「平均年収は高いイメージがあるが、発表値と実際の数字では2~3割くらいの差がある」
「少数の高待遇の人が平均値を上げている。労働組合調査ではもっと低い」
「昇格させる代わりに評価は低いままで据え置き、給与は変わらず。結局低い評価だけが人事記録に残って、リストラの対象にもなってしまう」
「低評価の人でも、異動や転出をさせるためにあえて高評価をつけることもある」
かなり「操作」をしていることが見て取れるはずだ。
さて、このような実態が内部から漏れ聞こえ、実際に不祥事も頻発している日本IBMであるが、不思議と大手メディアから叩かれることはない。それは、日本の大手メディアにはびこる「スポンサータブー」と無縁ではないのだ。
日本IBMは定期的に広告キャンペーンを展開しており、マスメディアから駅のポスターまで、かなり大がかりに露出する。そして、毎年のように「○○広告賞」などを受賞してさえいるのだ。直近では「Smarter Planet ITシリーズ」の広告が、第16回日経BP広告賞の「最優秀IT広告賞」を受賞。その他の受賞履歴は同社ホームページで確認できる。