今年8月、次のような出版ニュースが流れた。
「東証1部上場の印刷業『廣済堂』は、100%出資子会社の『廣済堂出版』の全株式および債権を、日本国内在住の個人に譲渡したことが明らかになった」
廣済堂出版は1970年に設立の書籍・雑誌・DVD・CDの企画・編集・出版・輸出入を主力に事業を展開している出版社。幻冬舎代表取締役社長の見城徹氏が、大学卒業後入社した最初の出版社で、自身で企画した『公文式算数の秘密』が38万部のベストセラーになり、その後のカリスマ編集者人生のきっかけをつくった出版社でもある。出版不況の影響により5期連続で赤字を計上するなど業績が悪化している。
出版業界ではこの譲渡先の「日本国内在住の個人」とはいったい誰なのか、さまざま憶測が飛び交った。なにしろ、この出版不況で紙媒体が中心の廣済堂に投資して目覚しいリターンを得ることができるようなビジネスプランがあるのだろうか、というわけだ。
この「個人」の名前が思わぬ方向から明らかになった。なんと西和彦氏だというのだ。西氏は、マイクロソフトのビル・ゲイツ元会長とは同い年の友人で、アスキーの創業者で、ベンチャー起業の草分け的存在だ。しかし、最近ではオーナーだったサブカル出版社のアスペクトでのギャラ未払い問題(当サイト記事『アスペクト、作家が印税未払いを告発…一斉に出版契約解除、オーナーはあの有名起業家?』参照)やオーナーだったGGメディアでの出版トラブル(当サイト記事『石田純一らへのギャラ未払い騒動の出版社、破産の真相…オーナーは西和彦氏だった』参照)など、ネガティブな声しか聞こえてこない。
アスペクト賃金未払い問題
今回、廣済堂出版の新オーナーは西氏だという情報は、アスペクト関係者によって明らかにされた。
「9月30日付で廣済堂出版のオーナーになりました。表向きは名前を出していませんが、すでに、監査役と広告営業などを廣済堂出版に送り込んでいます。西氏の数十年来の友人で、アスペクトやGGメディアの表向きの社長だった『高比良公成』氏が取締役に名前を連ねるのも時間の問題でしょう。
しかし、西氏は投資するお金があるのだったら、解決していないアスペクトの賃金未払い問題を解決してからにしてほしいものです。2000万円を超える未払い賃金をめぐって訴訟になっても、西氏は法廷に姿を見せないまま、払える資産がないと主張していたのではなかったか。アスペクト編集部はこれまで残っていた編集部員2人も11月で解雇して、編集部も閉鎖されました」(アスペクト関係者)
この裁判の判決では、従業員ら側の請求権が認められたものの、各人に一部支払いをしただけで、あとはなしのつぶて。残った社員へも給与遅配が続いていたという。西氏は廣済堂出版でどのようなビジネスモデルを構築するつもりなのだろうか。
「西氏の意向で動くスタッフは、残念ながら広告営業でお金を回す紙媒体のビジネスモデルを想定している。アスペクトとGGメディア騒動でこのビジネスモデルは限界があることに気がつくべきなのですが。新しい手法を生み出せない限り、会社は数年でぐしゃぐしゃになるでしょう。廣済堂出版と今後取引をする方々は、支払い条件等をしっかりと確認したほうがいい」(アスペクト関係者)
ベンチャー企業の草分け的存在が紙媒体のビジネスモデルで味噌をつけるとは、皮肉な話ではないか。
(文=編集部)