そこで、16年度予算は、「一億総活躍社会」で掲げた「出生率1.8」実現のために、1.5兆円を配分した。2人以上の子どもがいる低所得者世帯への支援として、第1子の年齢にかかわらず第2子は保育料を半額に、第3子以降は無料にする。この措置で、29万人の負担が軽減されるという。また、第2子に対する児童扶養手当の加算額を最大1万円とする施策も盛り込んだ。第2子への手当ての増額は約35年ぶりという。
TPP(環太平洋経済連携協定)関連の国内農業対策などでも、補正予算で打ち出した施策を補完する政策が多く盛り込まれている。
防衛予算が「聖域化」
さらに、首相のこだわりから防衛予算が「聖域化」し、突出したことは特筆すべきだろう。前年度比で1.5%増と社会保障費を凌ぐ伸び率を記録、初めて5兆円の大台を突破した。防衛費の4年連続の増額も異例である。使途には、最新鋭のステルス戦闘機、新型の空中給油機を購入して中国の海洋進出が目立つ南西諸島に配備する費用などが計上されている。
少子高齢化が進む中で、社会保障関連費を大幅に刈り込むことは不可能に近い。一方で近年、勢いのない経済を刺激したり、バラマキ予算の帳尻を合わせたりするために、補正予算を組むことが常態化している。アベノミクスの成功を演出するためか、16年度の予算は、GDPの名目成長率を年率3.1%と見積もって編成された。
この高い前提をクリアできなければ、補正予算を組んで国債を増発せざるを得ないだろう。そうなれば、財政再建が一段と遠のく。こんなことが続けば、早晩欧州諸国並みに消費税の基準税率を20%前後まで引き上げることも想定せざるを得ない。
そのなかで、政府・与党が目論みどおり参議院議員選挙で大勝すれば、憲法改正が現実の問題になるだろう。
来年は、予算の問題が予算にとどまらない可能性を念頭に置いて、安倍政権の一挙手一投足を注意深く見守る必要がある。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)