大阪市に、「スモカ歯磨」という歯磨剤専業メーカーがある。1925年に、サントリーの前身である寿屋の一部門として、たばこのヤニ取りに特化した歯磨き粉製造からスタートした。独自の商品開発で多くの歯科医に採用されるなど、隠れたベストセラーになっている液体歯磨き剤のほか、2015年には独自ブランドの歯磨き粉を本格発売するなど、ニッチな分野で存在感を維持している。
今回、スモカ歯磨の藤野和仁社長に
・現在のビジネスモデル
・ヒット商品開発までの苦労
・今後の戦略
などについて話を聞いた。
専門性の高い技術を持つワケ
–歯磨き粉メーカーとしては伝統がありますね。
藤野和仁氏(以下、藤野) 寿屋の歯磨き部門が発祥です。その後、1932年に独立して藤野家で寿毛加社を立ち上げました。ヤニ取り専門の歯磨き粉製造が最初で、オリジナル製品は今もつくり続けています。
–どのようなビジネスモデルなのでしょうか。
藤野 企業のOEM(original equipment manufacturing:相手先ブランドの製品を製造すること)と、独自ブランドの製造販売の組み合わせです。
–OEMについて、詳しく教えてください。
藤野 化粧品会社などから依頼を受けて、他社ブランドの歯磨剤を生産するものです。以前は安いものから高いものまで請け負っていましたが、最近は品目数を絞っています。
–藤野社長が入社した経緯を聞かせてください。
藤野 会社の全株式を保有していた祖父が亡くなったあと父が家業を継がなかったため、番頭さんが経営を担っていました。父は百貨店勤めで、私が就職するときにはスペインに駐在していました。あるとき父から長文のFAXが届き、「会社を継がないか」ということが書いてありました。迷いましたが、自分の人生を考えて「チャレンジしてもいいな」と考えて入社しました。当時20代の社員は私ひとりで、社員の平均年齢は60代でした。そのため、販売や開発などいろいろやりました。
–苦しいときもありましたか?
藤野 私が入社した後に父が社長になり、経営のかじ取りをしていました。ただなかなか商品が売れず、父はもう事業をやめるか身売りするかを考えていました。そうしたタイミングで、「売れる歯磨き粉とは何か」を考えて歯周病の専門医などに相談したところ、ゆすいでも水に流れない歯磨き粉はできないのかというヒントをもらいました。そこで歯に張り付いて保護する歯磨き粉「ジェルコートF」を開発したところ、歯科医などの間で評判になりました。ところが、発売前に取引先の大手都銀から貸しはがしに遭いました。その後、別の金融機関が支援してくれたので仕事を続けられ、現在この商品は年間130万本以上売れています。
さらに、自社の新しいブランドを確立するために「コスミオン」という歯磨き粉を開発し、15年から本格的に販売を始めました。2種類の歯磨きペーストを組み合わせ、朝は汚れを落とし、夜寝ている間に殺菌と歯茎ケアをするという使い分けをします。ひとつ税込1000円と高いのですが、ヒット商品になっています。