広いフロアに所狭しと並ぶ家電、お得感を前面に打ち出したポップや値札――。家電量販店の印象といえば、おおむねそんなところだろう。しかし近年、従来のイメージを覆すような新形態の店舗が次々と出店されている。
なかでも、2015年10月に東京駅八重洲口にオープンして話題となっているのが、ヤマダ電機の新店舗「Concept LABI TOKYO」だ。地下1階、地上10階、売り場面積2000平方メートルという規模もさることながら、注目すべきは同店が「最先端のコンセプトを発信するフラッグシップ店舗」(山田昇社長)と位置づけられていることだ。
そんな「Concept LABI」はどんな店なのか。実際に足を運んでみた。
高級家電から戦国武将の兜、ランドセルまで!
「Concept LABI」は、東京駅八重洲口から徒歩3分弱という好立地にある。まず目を引くのが、店舗正面の壁にある「Apple」のロゴだ。1階フロアはすべてアップル製品の売り場になっていて、一瞬「ここはアップルストアか?」と思ってしまうほどだ。
従来の家電量販店では、1階には携帯電話の売り場を置くのが一般的で、池袋にあるヤマダの「LABI1日本総本店」も、1階の大半を占めているのはスマートフォン(スマホ)やデジタルカメラだ。アップル製品のみのフロアがある家電量販店は、今のところ「Concept LABI」以外にないだろう。
「Concept LABI」では、スマホの売り場は2階にある。ドコモやauなどの各キャリアがカウンターを構え、ブースには販売員が待機しており、家電量販店としては珍しい対面販売となっている。
3階はソニーとパナソニック専用のフロアになっており、一つひとつの商品の売り場面積が広く、内装もまるでショールームのようだ。この日も、4Kテレビの前に置かれたソファに座りながら、店員から製品の説明を受けている客がいた。
4階も同じく液晶テレビやオーディオ類で、5階は高級デジカメなどが並ぶ。なかでも目立つのが、木目調の床で統一された「高級家電」のコーナーだ。30万円以上もするエスプレッソマシンなどが陳列され、もはや家電量販店というより「展示会」に近い。
6階はインバウンド(海外からの訪日客)向けとなっており、温水洗浄便座や炊飯器、美容家電、化粧品など、海外で人気の商品がズラリと並んでいる。パネルによる商品説明は中国語で、この日も「快速浄化PM2.5」と書かれた空気清浄機を中国人観光客が購入していた。
中国語で商品説明が書かれた温水洗浄便座7階と8階も生活家電の売り場だが、こちらは日本人向けのようで、どことなく従来の店舗に近い雑多な並びである。9階はパソコンやタブレットなどのフロアで、最上階の10階は法人向けのため、スーツを着た男性客がまばらにいた。
地下1階は訪日外国人に受けそうな商品で埋め尽くされており、腕時計や医薬品をはじめ、刀、戦国武将の兜、さらにランドセルと、その品揃えはもはや総合ディスカウントストアのドン・キホーテ並みだ。
売り上げ減少のヤマダ電機の新戦略だったが……
今回、行ってわかったのは、「Concept LABI」は各階のコンセプトに応じてフロア構成や商品の見せ方が異なっており、ちょっとしたテーマパークのようになっていることだ。少なくとも、一通り見て回っても飽きることはなかった。
また、最先端の商品が美しくディスプレイされ、いわゆる型落ち品も極端に少なく、「お買い得」「衝撃特価」「大決算セール」などの文字が躍るポップもなかった。各フロアにはよく訓練された多数の従業員が配置され、何組もの客が商品の説明を受けたり話し込んだりしている姿が目に留まった。
この新店舗の狙いは、どんな点にあるのだろうか。家電量販店最大手のヤマダは11年をピークに売り上げが減少しており、15年だけで約60店舗が閉鎖や業態転換を進めたとされている。
家電量販業界全体を見ても、アマゾンなど通販サイトの台頭や郊外の人口減少などの事情もあり、転換期を迎えているところだ。実際、通販事業を強化したヨドバシカメラや、ユニクロと提携して共同店舗「ビックロ」をオープンさせたビックカメラなど、他社はさまざまな対策を打ち出している。
そんな中で、ヤマダの打ち出した新戦略が「Concept LABI」だったわけだ。店舗に足を運んで特に感じたのは、この新店舗が“爆買い”で知られる中国人をはじめ、増加する訪日外国人客を強く意識していることである。
「Concept LABI」は、日本人向けのフロアと外国人向けのフロアに明確な棲み分けがあり、炊飯器や温水洗浄便座といった外国人に人気の家電を集めた5~6階、お土産品を置く地下1階は、特に中国人観光客の姿が多かった。対照的に、観光客需要の少ないパソコン売り場は9階に追いやられている。
期待の“爆買い”も不発
しかし、実際に「Concept LABI」のレジに並ぶ外国人観光客の数が少なかったのは、気になるところだ。インバウンド向けの商品を充実させているにもかかわらず、筆者が来店した日は“爆買い”する様子も見られなかった。
そこで、拙い中国語で店内のソファでくつろぐ中国人男性に話しかけてみると、「この店はツアー日程に組み込まれていたから来ただけ。家電や日用品だったら、もっと安い店で買うよ」という反応が返ってきた。
日本人の消費者にしても、普段はアマゾンや他店で安価に買い物をする層が「Concept LABI」で高級家電を購入するだろうか。山田社長によれば、インバウンドだけではなく、東京駅から出発するアウトバウンド(海外への旅行者)、日本橋・八重洲エリアのビジネスマン層もターゲットにしているとのことだが、「逆にそれが、同店を中途半端な感じにしてしまっている」というのが、実際に店を訪れた一消費者としての感想だ。
「Concept LABI」がヤマダの救世主となるには、「ここで買い物がしたい」と思わせる魅力づくりが必要ではないだろうか。
(文=松原麻依/清談社)