インバウンド(訪日外国人客)増加の勢いが止まらない。日本政府観光局の発表によると、昨年11月は前年同月比41%増、164万8000人の外国人客が日本を訪れた。またしても過去最高である。1月から11月までの累計では1796万人で、すでに過去最高だった2014年の1341万人を大幅に上回っており、年間では1900万人台の後半に達するとみられる。政府は20年までにインバウンド2000万人を目標にしているが、前倒しとなるのは確実とみられている。
政府が訪日観光促進事業(ビジット・ジャパン)をスタートさせた03年の訪日外国人客の数は521万人。その後、リーマン・ショックや東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響による一時的な足踏みもあったが、13年間で4倍近くに膨れ上がった。その結果、「爆買い」で小売業界、宿泊客増加で観光関連業界に大きな恩恵がもたらされた。
ビジット・ジャパン事業による世界各国でのプロモーション、入国ビザ要件の緩和といった一連の観光政策と、長期化する円安がインバウンド急増の背景にあるのは間違いない。
歴然としている「インバウンド格差」
もっとも、実態を分析すると明らかな「インバウンド格差」が生じている。14年1年間の外国人宿泊者数(延べ)は4482万人(観光庁データ、以下同)。上位は(1)東京1320万人、(2)大阪620万人、(3)北海道389万人、(4)京都329万人、(5)千葉267万人、(6)沖縄239万人、(7)愛知149万人、(8)神奈川143万人、(9)福岡136万人となっており、ここまでが100万人以上の都道府県である。
下位は下から(47)島根2万8000人、(46)福井3万1530人、(45)徳島3万5940人、(44)高知3万8590人、(43)秋田4万1510人と続く。これらを含め、10万人未満は15県もある。この現状を、経済ジャーナリストは次のように指摘する。
「東京、愛知、大阪など三大都市圏(8都府県)と、それ以外の地方を比べると宿泊者数には大きな開きがあります。最近は地方に泊まる客が増え始め、対前年比の伸び率では地方が三大都市圏を上回る現象も見られますが、絶対数では大きな開きがあります。年間10万人未満の県は、過熱するインバウンドブームから完全に取り残されてしまっているといえます」
意外な県が中下位グループに登場する。東大寺や法隆寺など歴史建造物が多く有名観光地で知られる奈良県だ。同県の年間外国人宿泊者数は14万5260人で全国26位。同じ古都でありながら京都の20分の1以下という少なさである。観光業界の関係者は、こう分析する。
「大型の宿泊施設が少ないうえ、京都や大阪から近いということで日帰り観光にとどまっているとみられます」
インバウンドブームといっても、恩恵にあずかっているのは限られたエリアなのである。