2015年も高い失業率に悩んだ韓国では、造船、重工業、電機、自動車など、主要産業を支える大企業を中心に、年始から年末まで大型のリストラが相次いで進められた。リストラ対象になった年齢も実に幅広い。30代や40代はもちろん、なかには入社間もない新入社員が“名誉退職”を勧告された例もあったといわれている。韓国の大企業の多くが無理な人員整理を進め、生き残りを図ろうと必死なようだ。
そのような不景気な波の中で、ある大企業が驚きの行動に出た。韓国大手総合食品会社のオットゥギ(だるま)は12月22日、パートタイマー1800人を正社員として登用すると発表したのだ。オットゥギは日本においても、ごま油やカップラーメン、チヂミの粉を製造・販売する企業として名が知られている。今回オットゥギで正社員に登用されたのは、試食を担当するパートタイマーたちだ。ちなみに、試食スタッフを正社員として抱えている食品会社は、韓国国内でオットゥギが唯一とされている。
オットゥギは「女性試食スタッフの平均勤続年数は9.1年と長い。彼女たちを正社員に登用した結果、製品に対する愛着が見違えるほど高まった。会社側としてはむしろ、大きな利益を得ることになると気づいたため、今回の決定に踏み切った」とコメントを発表した。
一方、オットゥギから派遣されたスタッフが働く大型商業施設の関係者は、「一番多く訪ねてきて、自社商品をしっかりと営業していくのは彼女たち。働きぶりには目を見張るものがある」と、その情熱に称賛を送っている。
不況の真っただ中にある韓国の多くの産業ではリストラが進められているが、オットゥギをはじめとする食品および飲食系産業の中には、社員にモチベーションを高めてもらうことで売り上げを伸ばそうという企業も少なくない。例えば、食品配達サービスを展開するベミンブラザーズは、配達員全員を正社員採用した。同じくコーヒー専門店のポール・バセットも、売り場に勤務するすべてのバリスタを正社員として雇用している。
まだ復調の兆しが見えない韓国経済ではあるが、リストラを進める企業と社員の力を信頼した企業のどちらが生き残るのか、今後の動向に注目したい。
(取材・文=河鐘基)