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トヨタが狙う、ダイハツとスズキの完全支配…スズキ、単独での生き残り困難

文=河村靖史/ジャーナリスト
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トヨタが狙う、ダイハツとスズキの完全支配…スズキ、単独での生き残り困難の画像1トヨタ自動車本社(「Wikipedia」より/Koh-etsu)

 トヨタ自動車が子会社ダイハツ工業の完全子会社化を正式に決定した。トヨタグループとしての小型車戦略を強化するのが目的で、将来的にはダイハツが軽自動車やスモールカーなどの小型車、トヨタがミッドクラス、レクサスが上級車をそれぞれ開発・販売するかたちで、3つの社内カンパニーに分割することも視野に入れる。

 ただ、この時期にあえてダイハツを子会社化したのは、一部で報道されたスズキとの提携に向けた地ならしと見る向きもある。

 トヨタは現在、ダイハツに51.2%出資するが、両社が最初に提携したのは1967年にまでさかのぼる。トヨタの豊田章男社長は「トヨタがダイハツに大事な小型車をお任せするのは、ダイハツだからこそできたこと」と述べ、長年にわたる提携関係がベースになっているとの考えを示した。

 北米などで販売を伸ばしてグループのグローバル販売台数が4年連続で世界トップとなったトヨタの課題は、インドをはじめとする新興国市場だ。インドを主要なターゲットに開発した小型車「エティオス」を投入するなど、新興市場攻略を進めてきた。しかし、市場が拡大するインドでのシェアは4.5%程度にとどまっている。新興市場のボリュームゾーンである低価格の小型車で苦戦しているためだ。「これまで以上に小型車の重要性が増しているが、トヨタの小型車は存在感を示せていない」(豊田氏)との自覚を持つ。

 そこで浮上したのが子会社ダイハツの活用だ。低価格、低燃費の軽自動車を開発してきたダイハツの技術力を活用することで、トヨタとしての小型車戦略の立て直しを図る。さらに、ダイハツがトヨタグループの小型車を一手に担うことができれば、ダイハツ、トヨタ、レクサスという3つのブランドで新たなグローバル戦略を展開できる。

 トヨタはグループのグローバル販売台数が1000万台を超えるほど規模が拡大するなか、グループでの効率的な運営体制を追求してきた。2012年にはトヨタ車の生産を委託していたトヨタ車体と関東自動車工業を合併、現在のトヨタ自動車東日本をトヨタの傘下に置いた。ダイハツについても以前から完全子会社化することを念頭に置いていたとみられる。

 というのも、トヨタ自動車東日本が誕生した翌年に当たる13年6月、ダイハツの社長に三井正則氏が就任した。ダイハツのトップはトヨタ出身者が続いてきたが、三井氏は21年ぶりとなる生え抜き社長となった。

「トヨタ出身のダイハツ社長が在籍している時、トヨタがダイハツを完全子会社化すれば、ダイハツ社員は『自分たちは売られた』と思う」(業界紙記者)

 トヨタは完全子会社化を念頭に、生え抜き社長を据えて準備してきたことが透けて見える。ただ、トヨタが98年にダイハツへの出資比率を過半数に引き上げて子会社化して以来、トヨタはダイハツを完全に支配しており、小型車戦略の強化が至上命題とはいえ、このタイミングで完全子会社化する理由が今ひとつはっきりしない。そこで浮上するのがスズキとの提携だ。

トヨタとスズキの両想い

 スズキは09年12月に独フォルクスワーゲン(VW)と資本・業務提携を結んだが、VWが子会社扱いしたことにスズキが反発。技術の連携もうまくいかず「文化の違い」(スズキ鈴木修会長)を理由にスズキから提携解消を申し入れた。その後、国際仲裁裁判所の判断で15年9月に提携解消が正式に認められ、スズキはVWから発行済み株式の約20%を買い戻した。

 スズキは、新興市場であるインドの乗用車市場で約4割のシェアを持つなど、小型車で高い技術力を持つものの、次世代環境技術や今後本格化することが見込まれている自動運転技術では遅れている。GM(ゼネラルモーターズ)、VWと世界トップクラスの自動車メーカーを後ろ盾に生き残りを模索してきたスズキがVWとの提携解消後、単独で事業を運営していくのは困難とみられている。スズキの鈴木俊宏社長は「単独でできないなら(他社と)連携する必要がある」と他社との提携に含みを持たせていた。

 スズキはVWとの提携を解消した後の昨年秋、トヨタに提携を申し入れた模様。スズキとしては、経営環境が大きく変化するなか、トヨタの次世代環境技術や自動運転技術を活用したいとの思惑がある。

 新興国での小型車戦略を強化したいトヨタとしても、この話は「渡りに船」だ。特にGMや現代自動車、ホンダなど、世界の自動車メーカーが相次いで戦略を強化しているインドで長年にわたってトップの座を守り抜いているスズキとの提携は、トヨタの課題である新興市場戦略を強化するのに役立つ。

トヨタの誠意

 ただ、トヨタとスズキの提携で最大の障害となるのが、スズキの国内市場でのライバルであるダイハツの存在だ。スズキとダイハツは、国内軽自動車市場で熾烈な販売競争を繰り広げてきた。特に、14年にスズキが軽自動車市場で8年ぶりにシェアトップとなった前後には乱売競争となり、その影響は15年も続いた。乱売による反動で軽自動車販売が低迷、スズキ、ダイハツともに国内事業の収益は悪化している。

 トヨタダイハツに対して完全子会社化を提案したのは、スズキがトヨタに対して提携を申し入れた時期に近い昨年秋。

「トヨタは完全子会社化することでダイハツを完全にコントロールし、軽自動車販売でこれまでのような無理な競争をしないと、スズキに誠意を示したのではないか」(専門誌記者)

 ダイハツは、軽自動車販売の低迷やインドネシアでの販売不振で業績が悪化しており、トヨタとしても連結子会社であるダイハツの業績を問題視していた。トヨタがダイハツを完全子会社化した後にスズキと提携すれば、競争も沈静化して軽自動車市場が正常化するとの読みもある。

 トヨタとスズキは提携が報じられてから「提携交渉に入ったという事実はない」(スズキ)、「そのような事実はない」(トヨタ)と、ともに否定するコメントを発表している。ただ、トヨタのダイハツ完全子会社化の決定で、スズキとの提携交渉が水面下で進行するとの見方は強まっている。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)

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