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有馬賢治「日本を読み解くマーケティング・パースペクティブ」

大塚家具は“ヤマダ電機家具部門”化を徹底できれば、大きな可能性を秘めている

解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季
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大塚家具の大塚久美子社長(右、写真:日刊現代/アフロ)

 昨年12月、大塚家具ヤマダ電機が子会社化するというニュースが飛び込んだ。赤字経営が続いていた大塚家具をヤマダ電機が買収するかたちだが、大塚家具のこの決断を苦し紛れの身売りとする向きもある。しかし、大塚家具の大塚久美子社長は会見で「家電・家具という枠を越えて、暮らしの新しい選び方を提案できる」と、いたってポジティブ。一方のヤマダ電機の山田昇会長も「電化製品と家具は非常に親和性が高く、理想の組み合わせ」と、ともにシナジー効果を期待するコメントを寄せた。

 少し強がりにも思える両社の展望だが、「この買収に関しては期待が持てる」と分析するのは、立教大学経営学部でマーケティングを教える有馬賢治教授だ。

EC全盛時代でも求められる家屋備品のワン・ストップ・ショッピング

「記者発表で山田会長は『大塚家具は粗利の大きさから考えて、うまく展開できればすぐに黒字転換できる』という見方をしていました。確かにそれは間違いではないですが、条件として、消費者から見てコスパがいいと受け取られて、家電とともにそれなりの量を販売する必要があると思われます。そこでヤマダ電機が目指すべき販売形態とは、“家屋備品のワン・ストップ・ショッピング”ではないかと私は考えています」(有馬氏)

 ワン・ストップ・ショッピングとは、さまざまな商品をひとつの商業施設で買い揃えること。たとえば、夕食の食材を求めて商店街の八百屋や果物屋などをハシゴするのではなく、スーパーなどの総合商業施設1店で揃えるような購買行動を指す。有馬氏は、今回の子会社化でヤマダ電機の売り場のなかに家具コーナーができる可能性を指摘する。

「そのようなレイアウトの店舗は、引っ越しや新婚の新居などで家具と家電を一気に決定できる店舗として相応の需要が期待できます。なぜかというと、消費者は同じ店舗内で家屋備品を揃えられれば、従来以上に家電の色調などを家具に合わせやすくなりますし、まとめて購入すれば消費者の利便性やボリュームディスカウントの期待ができるからです。一見違うジャンルでありながら、家屋備品という捉え方で、同じ売り場に陳列することのメリットは思った以上に大きいのではないでしょうか」(同)

 しかし、現在はEC(ネット通販)が全盛の時代。店頭に商品を見に来させるような店舗づくりで、果たして消費者の支持を得られるのだろうか。

「すでに住居があり、家具家電を買い足していくケースだと話は別ですが、何もない部屋に家具などを配置する場合は、家電との同時調達のほうがイメージは合わせやすいと思います。それはEC隆盛の今でも変わらないのではないでしょうか。テレビ映像では、CMを流しても実際の商品のサイズ感や質感までを十分に伝えることはできません。テレビの普及で人やモノの“等身大”の理解が難しくなったといわれたことがありました。それは今も変わらず、むしろテレビよりさらに画面の小さいPCやスマホで商品を確認する機会が多くなった現代では、より現物のサイズ感を確認する必要性が大きくなっているのです」(同)

 ECサイトで注文して手元に届いた商品が思い描いたものではなかったという経験は誰にでもある。数千円の服なら諦めもつくが、数万円から数十万円の家具家電では、そうもいかない。これを考えると“家屋備品のワン・ストップ・ショッピング”が実現すれば、新たな商機をつかむことになりそうだ。

大塚家具がプライドを捨てられるのかが鍵

 だが、懸念材料もある。

大塚家具ヤマダに吸収されたわけですから、価格帯はヤマダ電機に合わせることになるでしょう。これは大塚家具が志向したかった高級・中級家具路線よりもコスパ重視にシフトすることを意味します。つまり『大塚ブランド』は実質的には有名無実化に向かい“ヤマダ電機家具部門”として消費者に受け止められるようになります。これに大塚社長が耐えられるかどうかが鍵となるのではないでしょうか」(同)

 大塚久美子社長は、前社長で実父の勝久氏(現匠大塚会長)と経営の方向性をめぐって対立し、お家騒動に発展した過去がある。これと同じように、会社の独自性を主張してヤマダ電機とのイメージギャップを生んでしまえば、元も子もないと有馬氏。あくまで顧客の目的は家屋備品を一気に揃えることなので、家具も家電も全体のイメージを統一できるかどうかが重要になるのだ。

「大塚家具の迷走は、顧客に求められていることよりも、社長の経営方針を優先しすぎた部分にありました。ヤマダ電機の子会社化によって組織自体は生き残る可能性が高くなりましたが、これまでのように意地を通すのではなく、執着を捨てて顧客のニーズに応えることが大塚家具には求められます。それさえできれば両社が融合して、“総合住居支援企業”として発展できるのではないでしょうか」(同)

 もともと高級路線だった大塚家具は、大塚久美子社長の下で中級路線へと舵を切ったことで業績を落とした。今回の子会社化で、さらにポジショニングは低価格帯へと向かう可能性がある。以前のブランドイメージとはさらに振れ幅が大きくなるが、これを大塚社長自身が進めようとした路線転換の延長線上だと本人が割り切ることができれば、大塚家具の活路となるのではないか。

(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)

武松佑季/フリーライター

武松佑季/フリーライター

1985年、神奈川県秦野市生まれ。編集プロダクションを経てフリーランスに。インタビュー記事を中心に各メディアに寄稿。東京ヤクルトファン。サウナー見習い。

Twitter:@yk_takexxx

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