6年半にわたるTPP(環太平洋経済連携協定)交渉を乗り切った12カ国の代表が先週木曜日(2月4日)、ニュージーランド最大の都市オークランドに集結して歴史的な調印式を行った。その場に、米国のフロマンUSTR(米通商代表部)代表らとの激しい応酬を乗り越えて昨年秋の大筋合意に貢献した甘利明・前経済財政担当大臣の姿がなかったことは、調印式のお祭りムードに水をさしたという。建設会社から金銭を授受した問題で同大臣が引責辞任したあおりで、日本のガバナンスへの信頼も損なわれかねない、残念な話だった。
信頼回復のために、安倍政権に求められているのがTPPの早期批准だ。今国会で実現すれば、難航が予想される米議会の承認手続きを後押しして、TPPの早期発効に弾みをつけることになるだろう。中国や韓国、タイなどの追加加盟を促し、自由貿易圏をテコにした経済成長を確かなものとして、年初からの変調に怯える国際資本市場の沈静化の一助にしたいものである。
メディアの関心は移ろいやすく、各社はこのところ、二転三転するシャープの再建問題や、ゼロ金利と量的・質的緩和が軸の金融政策の殻を破った黒田バズーカ第3弾の動向の報道に躍起だ。どのメディアも、TPP調印式の扱いは小さく、その歴史的な意義が忘れ去られたようだった。
だが、TPPは世界最大の自由貿易圏の誕生を意味している。発効すれば、その市場は国内総生産(GDP)で世界の4割弱を占める。人口8億1000万を擁する巨大市場だ。貿易量も世界の3分の1を占めることになる。日本にとっては、1992年の「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)のウルグアイ・ラウンド以来、四半世紀ぶりのメガ通商協定なのである。
経済成長に不可欠の構造改革でこれといった成果をあげられずにいる安倍政権がもう少し宣伝上手なら、「人口の減少を貿易の拡大で補う」TPPを、アベノミクスの柱のひとつとして掲げても良かったくらい骨太の経済政策といってよい。
協定の発効条件は、2年以内の場合は「12カ国すべてが批准する」か、それ以降の場合は「日米を含む最低6カ国が批准して、そのGDPの合計が域内全体の85%以上に達する」ことだ。すでにマレーシアは、上下両院が先月(1月)末、批准を終えている。
次は、今国会中の批准を目指す日本の番である。「GDPの合計が域内全体の85%以上」という要件を満たすには、GDPで世界1位の米国と同3位の日本の批准が必須条件だ。