神奈川県川崎市の介護付き有料老人ホームで、元介護職員が入所者を転落死させていた事件が衝撃を与えている。しかし、この事件は“氷山の一角”にすぎない。死に至らぬまでも、介護施設では介護職員などによる入所者への暴力などが日常的に行われている。
このほど、厚生労働省がまとめた「平成26年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」によると、高齢者虐待と認められた件数は、要介護施設従事者によるものが300件と初めて300件台となり、前年度より79件(35.7%)増加している。また、市町村への相談・通報件数は初めて1000件を突破し1120件で、同158件(16.4%)増加している。
都道府県別に見た要介護施設従事者等による虐待に関する市町村への通報件数がもっとも多かったのは、大阪府の127件、次いで東京都の82件、北海道の82件がワースト3となっている。
相談・通報者1308人の内訳は、当該施設職員が24.0%、家族・親族18.9%、当該施設管理者等11.9%、当該施設元職員11.3%となっており、介護相談員1.1%、医療機関従事者2.9%、介護支援専門員4.3%と施設に直接かかわっていない者は、ほとんど虐待を見つけることができないということが明らかになっている。
一方で、施設関係者にとっては「介護施設も人気商売」であり、入所者に対する職員等の虐待の事実は、施設の評判を大きく落とすことになるため、虐待の事実が隠ぺいされているケースは多く、実際には調査以上の虐待が行われている可能性を強く印象付けるものとなっている。
求められる、介護職員の待遇改善
虐待の発生要因としては以下のようになっている。
・教育・知識・介護技術等に関する問題:62.6%
・職員のストレスや感情コントロールの問題:20.4%
・虐待を行った職員の性格や資質の問題:9.9%
・倫理観や理念の欠如:6.8%
・虐待を助長する組織風土や職員間の関係性の悪さ:5.8%
・人員不足や人員配置の問題および関連する多忙さ:5.1%
虐待があった施設・事業所のうち、約4分の1が過去になんらかの指導等を受けており、そのなかには虐待事例が発生して指導を受けていたケースが4件あった。虐待の事実が認められた施設・事業者別では、「特別養護老人ホーム」が95件(31.7%)と最も多く、次いで「有料老人ホーム」が67件(22.3%)、「認知症対応型共同生活介護」が40件(13.3%)、「介護老人保健施設」が35件(11.7%)となっている。
虐待の種別では、暴力的行為など「身体的虐待」が63.8%ともっとも多く、次いで威嚇的な発言・態度、屈辱的な発言・態度など「心理的虐待」が43.1%、金銭を借りる、着服・窃盗、不正使用など「経済的虐待」が16.9%となっている。そして、虐待を受けた入所者のうち39.0%が「身体拘束」をされている。
虐待の程度では、「生命・身体・生活に関する重大な危険」が10件も発生している。虐待されている入所者のうち、69.7%が女性となっており、高齢者でも女性のほうがこうした危険にさらされていることがわかる。
一方、虐待を行った介護職員等は328人で、男性が192人(59.3%)、女性が132人(40.7%)となっている。女性が圧倒的に多数を占める介護の世界で、少数の男性による虐待が多いことが注目される。年齢的には、30歳未満22.0%、30~39歳19.2%、40~49歳19.2%、50~59歳12.5%となっており、若いほど入所者に対する虐待傾向があることが明らかになっている。
筆者の経験では、認知症や統合失調症などでは、強迫観念、幻覚などの症状が現れるケースも多い。意思疎通が難しいケースもあり、患者が暴力的になるケースもある。実際に入所者が介護職員を大声で詰った上、力いっぱいビンタをするのを目撃したことがある。
こうした事態に対処するためにも、入所者に対する介護職員の比率を高め、さらに介護職員の待遇を改善していく必要があろう。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)