菊川剛・前会長ら旧経営陣3人の初公判は12年9月25日、東京地裁で開かれた。冒頭、菊川被告は「自分の優柔不断さから(巨額損失を)公表に踏み切ることができませんでした。一切の責任は私にあり、全責任を負う」と言い切った。ところが、その後の公判では被告人席に座る当事者同士が非難の応酬を繰り広げた。
3人の被告が被告人質問で、粉飾を続けた理由として真っ先に挙げたのが下山敏郎(88)、岸本正寿(76)の両元社長の圧力だった。下山氏は84~93年、岸本氏は93~01年に社長を務めた。菊川被告は01年6月に社長就任後、2人に簿外損失の公表を提案したところ、「バカを言うな、会社がつぶれてしまう」と頭ごなしに反対され、断念したと供述した。
被告人質問では損失隠しに反対していたことをそれぞれ強調した。法廷を舞台に(粉飾の)実務を担当していた元監査役の山田被告が、元経営トップの菊川被告を責め立てる“内ゲバ”まで勃発した。上司の命令を忠実に実行して出世してきたサラリーマン経営者が一朝ことあれば、お互いに責任のなすり合いをするのはよくあることだ。サラリーマンの悲しい性というほかはない。
検察側は子会社にした国内ベンチャー3社を利用した損失解消の過程で外部に流出した総額に関して、指南役である野村證券OBの中川被告、横尾被告ら数人に成功報酬など計161億円が渡ったと指摘した。
オリンパスは損失隠しに利用した子会社のアルティス、ニューズシェフ、ヒューマラボの3社を解散し清算した。3社は実際の企業価値を上回る金額で買収され、買収金額は合計で700億円を超えていた。この資金が損失隠しの解消に利用されていた。
アルティス(負債総額42億875万円)とニューズシェフ(同65億7979万円)は12月13日、ヒューマラボ(同55億5000万円)は12月26日、東京地裁に特別清算を申請した。
国内子会社3社の特別清算によってオリンパスの粉飾決算事件に一区切りがついたはずだった。日本の司法当局は旧経営陣と国内在住の外部協力者だけを逮捕・起訴してオリンパス事件の幕引きをした。しかし、米国在住の野村證券OBの佐川氏やシンガポール在住のチャン容疑者など海外の外部協力者には手をつけなかった。
FBIがチャン容疑者を逮捕した狙いはどこにあるのか。国際金融市場にせい息する金融犯罪のプロたちを日本の当局に代わって、FBIが成敗するわけではない。オリンパスは米国市場でADR(米国預託証券)を発行しており、証券詐欺の共同謀議の処罰の対象になるのである。