危機の企業を1年で蘇らせた「最初の数秒」…グーグル、人々の行動情報を24時間把握
ニーズの瞬間を切り取る「モーメント」という概念
マーケティング業界の変化は激しく、DSP、DMP、MA、AIなどの横文字のバズワードが飛び交うが、その中心にあるものは「ニーズ」だ。昔も今も、そしてこの先も、マーケティングは、いかにニーズを的確に把握することができるかに挑戦している。
この「ニーズを把握する」という行為が、昨今のビッグデータ活用の普及により大きく進展しつつある。スマートフォン(スマホ)やウエアラブルデバイスによって、その人のニーズが強く生じる瞬間(モーメント)を捉えることが可能になってきたからだ。
しかしながら、このモーメントは決して新しい概念ではない。実は、これまでに一部の名経営者や企業が着目し、経営やマーケティングの根幹に据えている。その際に押さえておくべきものは、スカンジナビア航空のヤン・カールソンが提唱した「真実の瞬間」、P&Gのアラン・ラフリーが提唱した「第一の瞬間」と「第二の瞬間」、そしてグーグルが提唱した「第ゼロの瞬間」と「マイクロモーメント(Micro-Moments)」だ。
スカンジナビア航空を復活させた、最初の15秒
「真実の瞬間」(La hora de la verdad)は、もともとは闘牛世界の用語で「闘牛士が闘牛のとどめを刺す瞬間」を指す。赤い布で闘牛を挑発する闘牛士の狙いは、牛の背にある5センチ四方の「針の穴」と呼ばれる部位だ。そのピンポイントに垂直に剣を突き刺すと、その剣先は心臓まで達し、闘牛は一瞬にして死を迎える。「真実の瞬間」とは、「針の穴」へ接触する刹那、いわば闘牛士と闘牛の生死を分かつ決定的な一瞬を表している。
この闘牛世界の用語を、ビジネス用語として最初に使ったのは、書籍『真実の瞬間 SASのサービス戦略はなぜ成功したか』(ダイヤモンド社/堤猶二訳/原題:MOMENTS OF TRUTH)を執筆した名経営者、ヤン・カールソンだ。1981年に39歳の若さでスカンジナビア航空の最高経営責任者(CEO)に抜擢されたカールソンは、最前線に立つ従業員によるお客様への最初の15秒の対応が、その会社全体の印象を決定づけることに気づく。
「15秒の真実の瞬間にスカンジナビア航空を代表している航空券係、客室乗務員、荷物係といった最前線の従業員に、アイデア、決定、対策を実施する責任を委ねることが必要だ。もし問題が起こるたびに最前線の従業員が上層部の意向を確かめていたら、貴重な15秒間がむだになり、顧客を増やすせっかくの機会を失ってしまう」(同書より)
この最初の15秒を「真実の瞬間」と呼び、この瞬間に注力することで、赤字で苦しんでいた同社をわずか1年の短期間で立て直すことに成功したのだ。