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P&Gを復活させた、2つの真実の瞬間
このカールソンの「真実の瞬間」をさらに広めるきっかけとなったのは、2000年のP&Gの「第一の瞬間(The First Moment of truth)」だろう。
1837年創業のP&Gは、パンパースやアリエール、ファブリーズ、ジレット、パンテーンなどの数多くのブランドを持つ、いわずと知れた世界最大の家庭用品メーカーだが、その2000年頃は深刻な経営不振の状態にあった。
原因はさまざまだが、大きな要因のひとつが同社の技術偏重の社風だったといわれている。当時、新製品開発を最優先させ、製品開発とマーケティングコストが大きく膨らんでいき、満を持して発表した新製品は期待に反して次々と失敗していった。結果、同社はわずか4カ月間で3度の業績下方修正を行い、ドットコムバブルの真っただ中にもかかわらず、同社の株価は数日で半減してしまうほどだったのだ。
この時、新たにCEOとして抜擢されたのが、アラン・ラフリーだ。彼は、「技術重視」から「顧客重視」へと経営のかじ取りを大きくシフトし、「消費者こそが私たちのボス(Consumer is Boss)」というスローガンを掲げ、「顧客理解」を経営の原点にすると宣言した。同時に、各国のトップマネジメントに、必ず四半期に一度は自宅訪問や売り場でのインタビューを通して消費者の声を直接聞くことを義務づけ、消費者という「自分たちのボス」の意見を定期的に傾聴させることを徹底した。
この徹底した調査により、ラフリーはメーカーの「真実の瞬間」は2つあることに気づいた。それは、店頭で製品を購入してもらう「第一の瞬間」と、家庭内で実際に製品を使ってもらう「第二の瞬間」。
なかでも、ラフリーが重視したのは、ブランド選択の大半を左右する店頭でのブランド接触、つまり「第一の瞬間」だった。当時の調査によると、「第一の瞬間」は、カールソンの15秒よりもさらに短い、わずか3~7秒の一瞬。その一瞬の間に、テレビCMで見た新製品を店頭で見つけ、CMイメージとPOP広告、商品パッケージ、提供価格が交差し、直感で買うか買わないかを判断され、新製品ブランドの生死が決まってしまうことに気づいたのだ。
これを受けてP&Gは、世界最大の小売チェーンであるウォルマートをはじめ、さまざまな小売パートナーとの連携を強化し、マーチャンダイジング(MD:商品化計画)や売り場づくりの提案などを通じて仮説と検証を繰り返すことで、「第一の瞬間」で選ばれるためのノウハウを追求し続けた。このようなかいもあって、ラフリーは任期中にP&Gの売り上げを倍増、利益を4倍増、市場価値を1000億ドル以上向上させることに成功したのだ。