しかし、それでは被害者は“泣き寝入り”で終わってしまうため、「未成年者や認知症患者」などを「法律上、責任無能力者を監督する義務がある者(監督義務者)」に対し、これらの者に代わって責任を取るよう(損害賠償するよう)定めています(714条)。
今回、この民法714条の「解釈」が、各審級において二転三転したため、結論も異なってしまったというのが最大の原因です。
極めて珍しいケースだった今回の判決
特に二審は、民法714条の「監督義務者」について、「夫婦はお互い同居して自分と同一程度の生活を保障する協力扶助義務があるから、お互いに『監督義務者』になるが、子供は、基本的には経済的な面倒を見るにとどまるものであり、同居義務まであるものではないことから『監督義務者』にはならない」と「解釈」しました。
これに対して、最高裁は「そもそも、夫婦の同居義務は強制できるものでもなく協力義務も抽象的なものだし、扶助義務も相手の生活を保障する義務であり、第三者との関係で議論される義務ではないから、夫婦であるからといって、それだけで『監督義務者』になるわけではない、子供も同じである」と「解釈」したわけです。
さらに最高裁は、「監督義務者」ではなくても、「事実上、責任無能力者の監督を行っており、監督義務を引き受けたと考えられる事情があるなら、民法714条が類推適用される」としました。
しかし、本件の場合は、当時妻も85歳と老齢で、息子の妻による介護が必要なほど足に麻痺があったりしていたので、「夫の監督義務を引き受けた事情はない」とされ、長男については、20年以上同居していないし、1カ月に3回ほど訪問するだけだったので、「父の監督義務を引き受けた事情はない」と判断されました。
なお、今回のように最高裁が事件を二審に「差し戻し」せずに「自判」するのは、二審が法令の適用を誤ったことを理由として二審判決を破棄する場合などに限られているため、とても珍しいケースです。
最後になりますが、今回の判決は、結論からいえばとても常識的な判断だと思います。そもそも、「未成年者や認知症患者などが事件を起こしたので、誰かに責任を押し付けなければならない」という発想で民法714条を活用しようという考えを、再検討しなければなりません。
もちろん、被害者が発生しているわけですから、「誰も責任を負わない」という結論も、社会を混乱させてしまいます。そこで、「加害者のない事故」というケースが存在することを社会において認識し、解決の枠組み(例えば、このような事故の被害を補填する基金を拡充するなど)を政治的に構築すべき事案であると考えます。
(構成=編集部、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役・弁護士)