成長が続くインターネット通信販売市場に異変が起きた。国内トップである楽天の国内流通総額(電子商取引)の成長が鈍化しているのだ。
2015年12月期連結決算(国際会計基準)の国内流通総額は、2兆6748億円と過去最高だった。だが、伸び率は前期比10.2%にとどまった。2割近い成長を続けていた2年ほど前の勢いは完全に弱まった。
しかも、この数字はゲタを履かせたものなのだ。楽天は昨年11月に突如、流通総額の定義を変更した。それまではネット商店街「楽天市場」が中心だったが、宿泊予約の楽天トラベルを合算した新しい基準に変えた。この変更により、決算で公表してきた楽天市場の売上高と利益は開示されなくなった。
「伸びの高い楽天トラベルを合算して10.2%ということは、楽天市場の伸びは1ケタにとどまったと考えられる」と分析するアナリストもいる。
のれんの特損で減益
楽天全体の売上高に当たる売上収益は、前年比19.2%増の7135億円で過去最高。米国の通販関連イーベイツや電子書籍オーバードライブなど14年以降に買収した企業が売り上げに寄与したほか、クレジットカードや銀行などの金融部門が好調だった。
しかし、純利益は37.1%減の444億円だった。買収した仏ネット通販会社、プライスミニスターやカナダの電子書籍サービス会社Koboなどで収益が当初の想定を下回ったため、のれんや無形資産の減損損失を381億円計上した。
海外でのM&A(合併・買収)を急激に進めた楽天には減損リスクが根強くあったが、それが現実のものとなった。プライスミニスターは10年に220億円で買収したが172億円の減損を計上した。買収額の8割近くの損失を出した計算だ。
これだけ減損をしても、楽天ののれん代の残高は3694億円ある。イーベイツが972億円、オーバードライブが376億円のほか、キプロス通信アプリ会社のバイバーが1001億円など巨額ののれん代を抱えており、今後も減損リスクが大きな懸念材料となる。
三木谷浩史会長兼社長は「ビジョン2020」を発表し、20年12月期の売上高は15年期比の2.4倍の1兆7000億円を目指すと胸を張った。流通総額の目標は5.2兆円。15年実績の2倍だが、今の伸び率では届かない。
ライバルたちが楽天の背中に迫ってきた
ヤフーは19年までに楽天の流通総額を追い抜く目標を掲げ鼻息が荒い。13年秋に出店料や販売手数料を無料にした。その結果、15年12月末時点の店舗数は37万店となり、楽天の4万店を大きく引き離した。ヤフーの15年4~12月累計のEC流通総額は1兆円を超え、楽天の背中が見えてくるところまでに追い上げてきた。
ネットオークション「ヤフオク!」が主力だが、通販サイト「ヤフー!ショッピング」にも力を入れている。昨秋以降、テレビCMやヤフーのサイトを大型キャンペーンが埋め尽くした。「全員まいにち!ポイント5倍」など、出店企業の商品の割引や買い物で使えるポイント「Tポイント」の大幅還元を矢継ぎ早に打ち出し、これらの大規模キャンペーンが奏功して15年10~12月期のショッピングの流通総額は1453億円と41.4%伸びた。
これに楽天もセールをたびたび開催して応戦したが、10~12月期の流通総額の伸び率は10.9%にとどまった。そこで楽天は、「共通ポイント」の魅力を高めて客を引き寄せることにした。16年1月から楽天市場での商品購入時に、最大で従来の7倍のポイント付与を始めた。自社グループのクレジットカードや通信サービス、専用アプリなどを利用するほどポイントを加算する仕組みだ。
これまで楽天市場では通常、購入額の1%をポイント付与していたが、今は楽天カードの利用で4倍、楽天市場アプリで5倍、楽天プレミアムカードで6倍、楽天モバイルを利用すると7倍のポイントを上積みする。追加するポイントは販促目的として楽天が負担する。金融や通信関連の事業を持つ強みを生かし、ポイントで顧客の囲い込みを狙っている。
ヤフーがネット通販ですべての購入客を対象にポイントを従来の5倍にする期間限定のキャンペーンを実施して成果を上げたことから、楽天は楽天カードで買い物をするとポイントがさらに増える仕組みをつくって対抗することにしたわけだ。ポイント合戦はとどまるところを知らない。
他方、アマゾンは楽天の牙城であるモールに攻め込んだ。自社で仕入れて売る直接販売が主力だったが、モールの店舗数を急速に増やした。15年末時点でアマゾンのモール店舗数は18万店まで拡大し、楽天の4万店を大きく上回った。楽天とアマゾンの両方に出店している店舗も増えている。
アマゾンは有料会員の獲得に力を注ぐ。食品や日用品の品揃えを増やすだけではなく、音楽や動画を好きなだけ視聴できるサービスを追加した。ヤフーや楽天のポイント戦略と一線を画している。
米アマゾン・ドット・コムは世界で10兆円以上を売り上げ、日本事業の15年12月期売上高は前期比4.4%増の82億6400万ドル。平均為替レート(14年105円、15年120円)で換算すると前期比19.4%増の9916億円となり、楽天の流通総額の伸び率を上回る。アマゾンの日本事業の売上高は10年から15年の5年間に2.3倍になった。
楽天はネット通販で国内トップに君臨してきたが、明らかに成長が鈍化している。背中を追いかけてきたアマゾンやヤフーの足音が近づいてきた。
(文=編集部)