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IT業界に蔓延る“循環取引”表面化…計1436億円の架空売上、東芝や日鉄の子会社も

文=編集部
IT業界に蔓延る“循環取引”表面化…計1436億円の架空売上、東芝や日鉄の子会社もの画像1
「ネットワンシステムズ HP」より

 複数のIT企業が関わった循環取引の仕切り屋だった東証1部上場のシステム開発会社、ネットワンシステムズは2月13日、特別調査委員会(委員長:濱邦久弁護士、元東京高検検事長)の中間報告書を公表し、営業部の課長級社員(マネジャー)が取引を持ちかけるなど主導的な役割を担ったと認定した。ネットワンは12日付で、この社員を懲戒解雇した。

 中間報告書は「課長級だけが全容を把握し、架空の取引であることを認識していた」が、「ネットワンにおいて組織的に実行されたものではない」とし、組織ぐるみであることを否定した。取引に関与した他社の担当者らが不正と認識していたかどうかは、「判然とはせず、現時点では(不正を認識していたと)認定するまでには至っていない」。引き続き特別調査委員会が調べ、3月12日を目途に最終報告を公表する。

 中間報告書によると、中央省庁を担当していたネットワンの元営業シニアマネジャーが今回の架空取引を差配した。元マネジャーは実際に存在する中央省庁のIT機器の発注案件を利用し、IT機器を落札した企業に商品を納入するように装い、利益を上乗せして各社間で注文書を回していた。帳簿上の取引だけで商品の実体はなく、元マネジャーは、一部企業の担当者に注文書の偽造も指示していた。元マネジャーは架空取引であることを隠して上司決済を受けており、「予算の達成が営業部の生命線だったため、不正行為はやめられなかった」と話しているという。

 循環取引は2015年2月に始まり19年11月まで続き、取引件数は38件。ネットワンの業績への影響額は売上高で276億円、営業利益で36億円に上る。ネットワンは2月13日に予定していた19年4~12月期の決算発表を3月13日に延期。この時に過年度の決算を修正する。

循環取引の架空売上の累計額は1436億円

 ネットワンシステムズが主導した架空循環取引には、東芝子会社の東芝ITサービス(川崎市)、日本製鉄子会社の日鉄ソリューションズ(東証1部上場)、富士電機子会社の富士電機ITソリューション(東京・千代田区)、みずほリースの子会社のみずほ東芝リース(東京・港区)が関与していた。さらに、ダイワボウホールディングスの子会社ダイワボウ情報システム(大阪市)が加わっていたことが明らかになった。

 各社は循環取引の実態を次々と発表した。

 富士電機は1月30日、連結子会社の富士電機ITソリューションが絡む架空取引で、総額242億円を売上高として計上していたと発表した。取引件数は38件。すでに契約を解除した4件を加えると総額は289億円に上る。同社は「社員が実体のない架空取引だったと認識していたことを示す証拠や、不正の証拠は認められなかった」と結論づけた。

 日本製鉄子会社でシステム開発の日鉄ソリューションズは2月6日、架空取引に伴い、429億円の売上を水増ししていたと公表した。件数は29件。同社は「営業担当者にも実在性のない取引との認識はなく、循環取引に巻き込まれた」との認識を示した。

 東芝は2月14日、子会社の東芝ITサービスが架空取引で435億円の売上高を架空計上していたと明らかにした。ネットワンシステムズからIT機器を購入し、日鉄ソリューションズに販売するかたちを取っていたが、実際に機器が発送された形跡はなく、帳簿や伝票上で取引する循環取引だった。

 ダイワボウホールディングスは2月14日、子会社ダイワボウ情報システムの架空取引が、2014~16年度に7億円あったとリリースした。同社は「担当者は架空取引の認識はなかった」としている。

 みずほリースは1月24日、子会社のみずほ東芝リースが介在した取引で、実在性に疑義が見つかったと明らかにした。ただ、外部の法律事務所を起用して内部調査を進めたところ「実体のない架空の取引であったことを示す事情は認められなかった」としている。

 6社が公表した架空循環取引の累計額は1436億円に上る。

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IT業界の商慣習が循環取引の温床になっている

 循環取引とは、商品を実際には動かさず、資金と伝票だけが複数の取引先の間を巡ったようにして、最終的に最初の販売先に戻る取引のことだ。業界用語で「Uターン取引」とか「グルグル取引」「まわし」と呼ばれている。

 循環取引がIT業界に広まったのには、それなりの理由がある。

 IT業界では、ソフトウエアの開発を複数の企業が請け負う同業者間の取引が多く、「直送取引」が慣習化している。ネットワンの元マネジャーは仕入れ先に直接、IT機器を送る仕組みを悪用した。直送取引は不要な在庫を持たず、発送コストがかからないなどの利点があるため、IT業界では一般的な取引手法となっている。

 ここに、営業担当者同士が談合し、伝票による入出金を行うスルー取引が行われる素地が生まれる。スルー取引とは業界用語で「丸投げ」という。口座貸しなどが行われ、こうして循環取引の輪が形成される。

 循環取引は営業努力せずに売上高を水増しできるメリットがある。しかし、数%ずつ手数料を上乗せした金額で買い戻さなければならないので損失が膨らんでいき、循環取引の輪は必ず破綻する。破綻すれば、今度は損失の連鎖が広がるのが常だ。

 東芝は「こうした取引が二度と発生しないよう再発防止策を徹底する」と強調。「一部の例外を除き直送取引を原則取りやめる」としている。

循環取引額が“主犯”のネットワンより多い企業

 報道によると循環取引は半年で2巡していた。1巡目はネットワン東芝ITサービス→富士電機ITソリューション→日鉄ソリューションズ→ネットワンと、ネットワン→東芝ITサービス→富士電機ITソリューション→日鉄ソリューションズ→ネットワン。2巡目はネットワン→東芝ITサービス→みずほ東芝リース→日鉄ソリューションズ→ネットワンと、ネットワン→富士電機ITソリューション→日鉄ソリューションズ→ネットワンである。東芝ITサービスと日鉄ソリューションズは1巡目、2巡目とも、ダブルで循環の輪に入っているので、売上がネットワンの2倍近くになる、のだという。

 これまでにも、いくたびとなく循環取引は行われている。過去の代表的なものを上げておく。

 2004年にはシステム開発のメディア・リンクス(大阪市)、06年にはアイ・エックス・アイ(IXI、大阪市)が架空取引で売上高を水増ししていた。08年、ニイウスコーが循環取引を利用し、5カ年で売上高約682億円を過大計上したことが発覚。その後、民事再生法を申請した。

 ソフトウエアやシステムといった、いわば形のない商品を扱うIT業界の商慣行が、循環取引の温床になっている、との指摘がある。伝票は整っているので、真正な取引か架空取引かは会計検査で見分けることは難しい、といわれている。

 今回、ネットワンが主導した循環取引は氷山の一角にすぎない。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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