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楽天・三木谷氏「負けの理由は送料」の誤解…アマゾンは店側にフルサービス提供&送料無料

文=編集部、協力=三上洋/ITジャーナリスト
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楽天市場のトップページより

 楽天が同社のネット通販サイト「楽天市場」で3月18日から始める一部商品の「送料無料キャンペーン」に暗雲が漂っている。楽天は、楽天市場で3980円以上購入した場合に送料を一律無料とする「共通の送料無料ライン」を設ける方針だ。問題は、無料化される送料を出店者が負担する構図だ。出店者側は反発を強め、その声を聞いた公正取引委員会も独占禁止法が禁じている「優越的地位の乱用」に抵触する恐れがあるとして、調査を始めている。

三木谷氏「なにがなんでも成功させる」

 楽天の三木谷浩史会長兼社長は先月29日、都内で開催された「楽天新春カンファレンス2020」に出席。会場の出店者に対して、楽天市場に出店する全店舗を対象とした「共通の送料無料ライン」の必要性を次のように主張した。

「(無料化を)何がなんでも皆さんと成功させていきたい」

「アマゾンに負けている理由は送料」

「公取がマスコミにリークするやり方は時代錯誤だ」

 その上で、事業者がバラバラに送料を設定している「弱み」が克服されて顧客満足度が向上すれば、流通総額が14~15%アップし、出店者側にも利益が出ると説明した。

  楽天市場の出店者は、これまで自由に送料を決めることができた。当然、送料を無料にするのかどうかについても、出店者の裁量に任されていた。3月から始まるキャンペーンでは3980円以上購入したユーザーは自動的に「送料無料」(沖縄・離島からの発送を除く)になる。

アマゾンは2000円以上で無料に

 一方で、三木谷氏が強く意識するアマゾンでは、2000円以上購入すると送料無料になる。アマゾンプライム会員は購入額にかかわらず無料だ。楽天と同じように個人商店者が集まって商品を販売している「マーケットプレイス」の出店者は、自由に送料を設定できる仕組みだ。

 楽天は2019年1月に無料化方針を表明。全国約5万人の出店者に対して説明会を実施してきた。そして8月には無料化の購入ラインを3980円に定めた。だが、これに対して一部の出店者が猛反発。出店者らは10月、プラットフォーマーによる「優越的地位の乱用」と主張し、送料無料化の撤回などを求めて「楽天ユニオン」を設立。公正取引委員会に調査を要請した。

 三木谷氏が掲げる「打倒アマゾン」のために、今回の送料一律無料化は有効な手段になり得るのか。また、楽天市場の売上増を強引にも推し進めようとする背景には何があるのか。ITジャーナリストの三上洋氏は次のように解説する。

【三上氏の見解】

 ECサイトの国内シェアをめぐる争いは、アマゾンの右肩上がりが続いています。視聴行動分析サービスを提供するニールセンデジタルが昨年6月に発表した「オンラインショッピングサービスの利用状況」によれば、昨年4月時点のPCとスマートフォンの重複を除いた「トータルデジタル」でのオンラインショッピングサービスの利用者数は、「アマゾン」が5004万人(昨年同月比10%増)、「楽天市場」は4804万人(同8%増)でした。

 実際問題として、多くのユーザーはアマゾンのほうが楽天より使いやすいイメージを抱きがちです。アマゾンがウェブ、スマホに特化したUIなのに対して、楽天は昔ながらの通販カタログをイメージしたやや古いスタイルだからです。

楽天とアマゾン、勝利のカギは「物流」

 楽天とアマゾンの対抗軸で、最もネックになっているのは物流です。三木谷社長が主張するように送料を無料にすれば、流通量が14~15%上がることは間違いないでしょう。しかし、無料分の送料を誰が負担するのかという問題がついて回ります。

 楽天市場は、「衰退する地方の商店街をネット上で活性化する」とのコンセプトで始まりました。楽天は商店街というプラットフォームであり、実際に販売しているのは個別のお店です。そんななかで、今回の無料措置は商店街の組合長が会員の商店に『送料を無料にすることに決めたから、すべて負担しろ』と言っているようなものです。

 一方でアマゾンは、自社で仕入れ・販売をする商店として始まり、その後に他の商店に在庫管理・倉庫・物流システムを提供しました。その肝がフルフィルメントバイアマゾン(FBA)というサービスです。物流拠点(フルフィルメントセンター)に商品を預けておくだけで、商品の保管から注文処理、配送、返品に関するカスタマーサービスまで、アマゾンが代行します。そうしたシステムを全世界に構築したのです。

 アマゾンCEOのジェフ・べゾス氏は創業当時から、「シェアを取り切るまでは赤字で事業を行う」というポリシーで事業展開をしてきました。送料完全無料の期間も余裕を持って設定し、自社が身を削りながら懸命に物流拠点や販売センターを整備してきました。個人事業者や他のEC企業が出店するマーケットプライスは、アマゾン本体が構築し完成したサービスに乗っかる形で運用されています。そのため、アマゾンが『2000円以上で送料無料』という規則をつくっても、納得できる部分があるのです。

 楽天もこれに対抗して同様の楽天スーパーロジスティクス(RSL)という物流網の整備を急いでいます。しかし、出店者側が在庫管理のソフトウェアを導入しなければならないなど、出店者側に負担が生じています。今回の送料無料サービスも、RSLの利用者だけに適用されるのなら納得しやすかったのかもしれません。しかし、自社で配送を行っている出店者にも一律で送料負担を求めれば反発がでるのは当然ともいえます。

 アマゾンのようにシェアを取るまでは赤字展開すればよいのかもしれません。しかし、楽天グループの置かれた現状がそれを許しません。

コスト増予想の楽天モバイルを楽天市場でカバー

 楽天モバイルの携帯電話事業の本格稼働が今年4月に迫っています。同事業はグループ全体の最大の懸案事項です。ゼロから始めるので仕方がないところもあるのですが、この事業には膨大な時間と金がかかります。

 全国に34000~4000カ所の基地局を建設するのは容易な事業でありません。楽天が構想し、構築しようとしているクラウドを活用した基地局設置は技術としては革新的でした。しかし、実際問題としてアンテナを建てる作業そのものはなくなりません。従業員が交渉すべき地権者を探し、使用料をいくらにするのか交渉しなければなりません。

 また東京、名古屋、大阪以外に住むユーザーはKDDIのローミングを利用することになります。このローミングは高額で、楽天は1ギガバイト当たり500円をKDDIに支払わなければなりません。楽天独自のエリアは限られるので、既存の大手携帯キャリアに比べシェアは取りにくいですし、ローミング使用料のコストもかかるので、料金プランも安くできないでしょう。

 しかも楽天は5Gの整備も行わなければなりません。一連のモバイル部門の事業コストと5G 関連の投資を考慮すれば、楽天グループ全体で最も売り上げをあげている楽天市場の利益をあてにせざるを得ません。

 楽天市場はグループ全体の利益の約6割を占めます。好調とはいえ、楽天カードなどのフィンテック部門は約3割です。本来であればアマゾンと真剣勝負をするのであれば、赤字覚悟で送料を無料にしなければならないのでしょうが、こうした背景があってそうもできないというのが実情ではないでしょうか。

(文=編集部、協力=三上洋/ITジャーナリスト)

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