新型コロナウイルス感染の拡大が収束する気配がみえない。日本製紙連合会の矢嶋進会長(王子ホールディングス会長)は2月20日、新型コロナウイルスによる肺炎拡大を受けたマスクの品薄状態について「(平常に戻るのは)中国でウイルスが収まるころになるだろう」と記者会見で発言した。政府はマスクの増産のために設備投資をするメーカーに補助金を出す方針だが、矢嶋氏は「ウイルスは一時的な問題で、設備投資は様子見だ。そう簡単にはできない」「複数の製紙会社は現行の設備でマスクをフル生産しており、需要に応えるべく努力をしている」と強調した。
「補助金が出るのは3月までに設備を増やした場合のみで、使い勝手がよくない」(中堅マスクメーカーの経営者)
政府はやっと重い腰を上げた。3月5日、国民生活安定緊急措置法を適用して、インターネットなどでのマスクなどの転売行為を禁止した。法律に基づく転売禁止で、違反すれば罰則が科される。
日本商工会議所の三村明夫会頭は2月20日の定例会見で、新型肺炎の感染拡大に伴う景気への影響について「個人消費や春闘の交渉への影響があるのではないか」と述べた。3月11日は春闘の集中回答日だが、今年はインターネット上で数字を公表することになった。
感染が拡大すると企業・産業はどうなるのか。
まず、ショッピングセンター(SC)の優勝劣敗が進む。日本ショッピングセンター協会の統計によると2018年度(18年4月~19年3月)のSC年間総売上高は32兆6595億円。17年度比1.9%増だった。街の再開発といえば、これまではスーパーを核テナントとして専門店・飲食店を集めるSCが定番だった。全国至るところにSCが乱立した。だが、出店ベースが鈍化してきた。同協会によると2019年の国内SCの総数は3219施設で18年末に比べて1施設減った。前年割れは03年以来、16年ぶりのことである。
ネット通販の伸長や衣料品の販売不振が響き、閉鎖する施設の数が新規のオープンを上回った。苦戦する大型商業施設が増えるなか、アウトレットモールは好調だ。三菱地所、三井不動産系の2強の売上高は過去最高を更新した。三菱地所・サイモンが全国9カ所で手掛けるプレミアム・アウトレットの18年度のテナント売上高は3535億円と17年度比3%増えた。三井不動産が全国12施設を運営する三井アウトレットパークの18年度のテナント売上高は3289億円と17年度比2%増だった。アウトレットの2強が勝ち組といっていいのかもしれない。
米国はもっと強烈だ。ネット通販に押されカジュアル衣料の米フォーエバー21が経営破綻したように、SCを支えてきたテナントの小売店などの集客力が軒並み低下。米国ではSCの2割が閉鎖するとの予測がある。米国で起こることは数年後に日本で現実のものとなる。九州のメイト黒崎の破産はSCの倒産ラッシュの先駆けとなるとみられている。コロナウイルスでショッピングセンターの淘汰が一段と進むことが予想される。
東京五輪の時期まで終息しないとの指摘も
2002年から2003年にかけて流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)など、これまでの感染症の多くは数カ月で終息している。だが、「今回は最悪、東京五輪開催の時期まで終息しない」(感染症の専門家)といった悲観的な見通しがある。首相官邸も大手マスコミも、こうした重要な情報を黙殺しようとしているようだが、東京五輪は首都直下型地震と感染症の二重苦に見舞われる恐れが出てきた。
第一生命経済研究所は1月27日付で「新型肺炎が日本経済に及ぼす影響」を試算した。それによると「インバウンド(訪日外国人)消費減少で名目GDP(国内総生産)への影響はSARSの1.4倍以上」「各種要因を勘案すれば名目GDPは4833億円程度押し下げられる」とした。
化粧品の資生堂、コーセー、百貨店の松屋など化粧品や百貨店の株価が一時、急落。日本航空(JAL)、ANAホールディングスはそろって昨年来安値を更新した。安川電機、日本電産の決算が示すようにハイテク銘柄の業績も精彩を欠いている。「日本株は割安」という楽観論者の主張が通りにくくなっている。日本株はすでに「割高なのではないか」とするアナリストもいる。