何が流通の神様・鈴木敏文を狂わせた?セブン&アイ、訴訟続出と経営混乱で崩壊の始まりか
井坂氏を7年前に社長に抜擢した鈴木会長が、今回社長退任を進めたことは、人材育成ができなかったと自ら認めるに等しい。同時に、その社長交代案が否決され井坂社長の後任の若手を選出できなかったことは、経営の失策といえるだろう。
セブンの元商品本部長で、ファミリーマート取締役専務執行役員・商品本部長の本多利範氏が行う弁当などの商品開発会議の模様がニュース番組で放送されていたが、まさに鈴木会長の商品開発会議での姿と瓜ふたつだった。競合他社にもセブンモデルが浸透し、ひいては「ジャパニーズコンビニモデル」の基礎となっていることが垣間見えた光景であった。
鈴木会長退任に際し、今後のセブンについてセブン社員や取引先関係者にたずねたところ、意見は大きく二分された。ひとつは、経営の仕組みがしっかり構築されていることと、社内に鈴木会長のDNAを引き継いだ上意下達の“プチ鈴木会長”がそれぞれ部門にいることから、経営は安定するという見方。もうひとつは、やはり鈴木会長がいなくなると経営陣の求心力がなくなり、セブンやコンビニビジネスモデルに大きな影を落とすのではないかという見方だ。
7日の1時間に及ぶ鈴木会長の辞任会見では、セブンで買い物するお客さまへの感謝の意がまったく発言されていなかった。このことは小売業であるセブン&アイHDに今後、危機が訪れるのではないかと予感させた。
アメリカからスーパーのチェーンストア理論を持ち込み、流通革命を起こしたのがダイエー創業者の故中内功氏であり、アメリカのコンビニを基に日本の消費者に合わせて、世界でも通用するジャパニーズコンビニモデルをつくりあげたのが鈴木会長である。この2人が日本の流通業界のカリスマであることは異論を挟む余地がない。
中内氏が長男・中内潤氏への世襲を意図した人事は、ダイエーを崩壊させた大きな理由のひとつといわれている。
今回の鈴木会長の辞任の理由の一端が、康弘氏への世襲人事にあるとすれば、世襲とは天才の意思決定を狂わす恐ろしいものだということを痛感させられる。
今後、井坂社長の会見などによってさまざまな事柄が明らかになっていくだろう。推移を見守り、現場から飛び込んでくる情報を基に真相を追って引き続きリポートしていきたいと思う。
(文=法理 健/流通ジャーナリスト)