台湾のEMS(受託製造)大手・鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープ買収が決着した。この影響で、中小型液晶パネル大手であるジャパンディスプレイ(JDI)の漂流が始まりつつある。
ホンハイはシャープを買収することで、液晶の次に有望とされる有機ELディスプレイの本格生産を目指す。ホンハイはアップルのスマートフォン(スマホ)・iPhoneの受託生産をしているが、そのアップルは2018年からパネルに有機ELを採用することを公表している。
液晶パネルはバックライトを使うことで映像を映し出す。一方、有機ELは自らが発光するため、明るく高精細な画像が可能になる。ただ、製造には高い技術力が必要で、しかも価格が高い。シャープは有機ELの技術はあるものの、大量生産の技術やノウハウに乏しかった。ホンハイはシャープの技術を利用し、アップルからの受注を狙う。
当初、シャープは国が9割以上を出資する産業革新機構が経営再建を主導するとみられていた。日本の技術流出を避けるためで、同じ革新機構傘下のJDIとの統合を目指していたともされる。JDIは日立、東芝、ソニーの事業を統合して発足した経緯がある。いわば、オールジャパン体制の構築を目指していたことになる。ところが、ホンハイが高い買収額を提示し、途中紆余曲折はあったものの、ホンハイ傘下入りとなった。
株価は4分の1以下に
一方、革新機構傘下のJDIはシャープとの統合を前提に、独自の生き残り策を怠っていた節がある。シャープのホンハイ傘下入りが濃厚となっていた今年2月、JDIの本間充会長は第3四半期(4~12月)決算で「シャープはコンペティター(ライバル)の1社」とはしていたが、今後の戦略については車載事業や、医療・産業関連などへ注力すると述べるにとどまった。有機ELについては18年頃の量産を目指すとしている。
3月には国内2工場の旧式ライン停止など生産体制の見直し、従業員の早期退職などを発表した。売上高の9割を占めるスマホ向けへの依存から脱却し、有機ELへの投資も明らかにした。20年頃にはスマホ向けを半分程度に抑えるという。
しかし、時代の流れは速い。4月に入って韓国電機大手の日本法人LGエレクトロニクス・ジャパンは、65型など5種類の有機ELテレビの新製品を発表した。同じく韓国のサムスン電子はすでにスマホ向けで先行しており、年間2億枚のパネル生産能力があるとされる。LGディスプレイもアップルウォッチにパネルを供給し、小型パネル技術の蓄積を進めている。