セブン&アイ・ホールディングス(HD)の鈴木敏文会長の引退劇は各方面に衝撃を与えた。鈴木氏といえば、今や数少ない“カリスマ経営者”であり、その言動は常に注目を浴びていた。そんな同氏の突然の引退表明となれば、話題を呼ばないわけがない。だが、筆者が衝撃を受けたのはその引退にではなく、そのプロセス、いわばコーポレート・ガバナンス(企業統治)のあり方についてだ。
鈴木氏が引退に追い込まれるまでのプロセスを簡単に振り返れば、事の発端は4月7日の取締役会で同氏らの考えた人事案が指名・報酬委員会で承認されなかったことだった。セブン&アイHDは3月8日に指名・報酬委員会を設置したばかりだった。
指名・報酬委員会は独立社外取締役を委員長とする取締役会の諮問機関で、代表取締役、取締役、監査役、執行役員の指名とその報酬について審議する役割を担っている。委員会のメンバーは社内取締役2名、独立社外取締役2名(委員長含む)の計4名からなっている。社内取締役は鈴木氏と村田紀敏社長。
結局、この委員会で鈴木氏側の人事案が拒否された。半数の2人が独立社外取締役なので、人事案が承認されるためには社外取締役のどちらかが賛成しなければならなかった。
結果、鈴木氏と村田氏が退任し、子会社のセブン‐イレブン・ジャパンの井阪隆一社長が社長に就くという“ドンデン返し”が起こった。
ここで注目されるべきは、わずか1カ月半前に設置された指名・報酬委員会で、それも2人の社外取締役が、日本を代表する小売業のトップ人事を決めてしまったことの“異常さ”だ。社内の派閥抗争であれば当事者たちは社内状況や会社の業況もわかるだろう。しかし、社外取締役がそこまで企業を深く理解しているとは思えない。
社外取締役の思い上がり
みずほフィナンシャルグループ(FG)の社外取締役で取締役会議長を務める大田弘子氏が米通信社ブルームバーグの取材に応じた際の発言が、金融業界で失笑を買い話題となっている。大田氏は現在の佐藤康博社長の後任選びについて「当然指名委員会が行う」と明言。「現社長の意思は忖度(そんたく)しない」と大見得を切った。
だが、大田氏はどこまでみずほFGのことをわかっているのか。コングロマリット化したメガバンクの事業は多岐にわたる。その舵取りを行う人物を選べるほど、大田氏は業務に精通しているのだろうか。大田氏はどれだけの時間を同社で過ごし、どれだけの人と会い、会話し、人物を見極めているのか。「現社長の意思は忖度しない」というセリフの尊大さには、呆れかえるばかりだ。