ただ、日産が投資を抑えながら三菱自を傘下に置くため、用意周到に準備を進めてきたとの見方が強まっている。三菱自の燃費偽装が発覚したのは、日産の指摘だった。日産と三菱自の軽自動車開発は、主に三菱自が担当してきたが、次期軽自動車の開発では日産が担当することで合意した。
これを受けて日産は昨年11月、参考値として現行の軽自動車の燃費を測定したところ、届け出ていた数値と乖離があり、三菱自に確認を求めた。その後、日産は昨年12月、三菱自に合同調査したいと申し入れ、今年2月に両社で実車を使った燃費の調査を開始、3月に結果を分析した結果、走行抵抗データに不正があることが判明した。
一連の経緯から、「日産は昨年に軽自動車の燃費を測定した段階で三菱自の不正をある程度知っていたのでは」(業界筋)とみられる。日産は不正を見抜いた上でその影響を推定するとともに、三菱自の企業価値やルノー日産グループとのシナジー効果について検討したと見られる。
三菱自の主要株主である三菱重工業は客船事業の失敗で業績が悪化、三菱商事は資源安で初の赤字転落、三菱東京UFJ銀行がマイナス金利の導入で業績の先行き不安となっているなかで、三菱グループによる支援は期待できない。そうした状況のなか、日産は三菱自株式を安く買い叩けばグループとしてメリットは大きいと判断した模様。
「三菱自の燃費偽装が発覚すると予想通り株価が下落し、発覚前から株価がほぼ半値となった段階で提携を申し入れたのではないか」(自動車担当記者)
三菱自の燃費偽装が発覚する前日の株価の終値は864円だった。日産の三菱自株式の取得額は468円52銭。燃費偽装が発覚する前と比べてほぼ半額の投資で、三菱自を傘下に置くことができる。
絶好のタイミング
日産のゴーン氏は三菱自の燃費偽装が発覚後、「不正があった車を三菱自から買っていたので巻き込まれているが、ビジネスパーソンとして判断できるよう全容解明を待ちたい」とコメント、日産は被害者との立場を強調した。三菱自の燃費に関する不正に関して国土交通省が報告書は不十分とし、全容も解明されていないにもかかわらず日産が三菱自との資本提携を決めたのは、投資を抑えるためとみられる。
というも、三菱自の株価は4月27日には412円と今年最安値を付けたが、その後、燃費偽装問題が三菱自にとって影響が小さい国内にとどまることや、自己資本比率48%、4600億円の手元資金、有利子負債300億円以下と、三菱自の財務体質が健全なことが評価され、じわじわと持ち直していた。