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斜陽の百貨店、新型コロナで壊滅的状況…休業要請範囲に含まれないのに営業できないワケ

文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント
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高島屋(撮影=編集部)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、百貨店が壊滅的な状態に陥っている。三越伊勢丹ホールディングス(HD)は、3月の国内百貨店の既存店売上高(速報値)が前年同月比35.1%減だった。J・フロントリテイリングは、傘下の大丸松坂屋百貨店の合計売上高が43.0%減(同)、エイチ・ツー・オーリテイリングは、阪急阪神百貨店の全店売上高が28.1%減(同)だった。高島屋は、高島屋と国内百貨店子会社の合計の既存店売上高が35.1%減(同)だった。いずれも大幅マイナスだ。

 新型コロナの感染拡大に伴う外出自粛、臨時休業、時短営業で、来店客が減ったことが響いた。また、入国者を制限したことで訪日外国人(インバウンド)が激減したことも響いた。大丸松坂屋百貨店の合計の免税売上高は、前年同月比97%減だったという。高島屋は92%減だった。

 今後も厳しい見通しだ。4月7日に政府が、東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令したことを受け、各社とも8日から一部施設の臨時休業を余儀なくされた。三越伊勢丹HDは、三越日本橋本店(東京都中央区)や伊勢丹新宿本店(同新宿区)など6店舗を休業した。Jフロントは、大丸東京店(同千代田区)や松坂屋上野店(同台東区)など9店舗を休業。高島屋は日本橋高島屋SC(同中央区)や高島屋大阪店(大阪市)など13施設を休業した。そのほかにも続々と休業の発表が続いた。

 百貨店は新型コロナ前から厳しい状況に置かれている。日本百貨店協会がまとめた2019年の全国百貨店売上高(既存店ベース)は、前年比1.4%減だった。全店ベースの売上高は2.2%減の5兆7547億円で、6年連続のマイナスとなった。ピークだった1991年の9兆7130億円からは4割も減っている。「ユニクロ」などファストファッションの台頭で、高額な百貨店アパレルが敬遠されるようになったほか、少子化や消費者の購買行動の変化で需要が減った。

 百貨店各社の業績は、どこも厳しい。ただ、企業によって多少の濃淡はある。Jフロントは仕入れ販売ではなく賃料を得て稼ぐ商業施設への転換を加速させ、「脱・百貨店」が進んだことで業績は底堅い。20年2月期の連結最終利益(国際会計基準)は前期比22.3%減の212億円と減益だったものの、それなりの額を稼ぎ出せている。

 一方、三越伊勢丹HDは厳しい。19年3月期の連結最終損益は134億円の黒字(前期は9億6000万円の赤字)と黒字転換したものの、以前の水準には及ばない。もっとも、ある程度の成果は出せている。黒字転換したのも、不採算店の閉鎖など構造改革を進めてコスト削減を図ったことが功を奏したためだ。販売面でも成果が出ており、高価格帯の雑貨や衣料品、化粧品の品ぞろえを強化したことで、既存店ベースの売上高は前年を上回った。とはいえ、構造改革は道半ばで、「V字回復」には至っていない。20年3月期の予想最終利益も70億円にとどまる。

アパレルも凋落

 このように厳しさの度合いは多少の濃淡があるが、基本的にはどこも厳しいと言っていい。百貨店というビジネスモデルは限界を迎えている。もちろん、各社とも構造改革を進めるなどして対応してきたが、大きな流れを変えるには至っていない。試行錯誤で暗中模索している最中だ。そうしたなかで新型コロナが直撃してしまった。

 百貨店の衰退と歩調を合わせるかたちで、主に百貨店向けを扱うアパレルも凋落している。オンワードホールディングスは昨年10月に不採算店の大量閉店を発表。国内外の店舗の約2割にあたる約600カ所を閉鎖する見通しだ。合わせて20年2月期の業績予想の下方修正も発表。最終損益は240億円の赤字(前期は49億円の黒字)に引き下げた。従来予想は55億円の黒字だった。12 月には約350人の希望退職を募り、413人が応募している。

 三陽商会は15年に英高級ブランド「バーバリー」とのライセンス契約を終了して以降、厳しい状況が続いている。後継ブランドが育たないなどで業績が悪化した。20年2月期(決算変更で14カ月の変則決算)の連結最終損益は22億円の赤字と予想しており、4期連続の最終赤字になる見込みだ。こうした厳しい最中に新型コロナが直撃した。3月の店頭売上高は44%減少している。

 レナウンも厳しい。19年12月期の連結決算(10カ月の変則)は、売上高が502億円(前期は636億円)、営業損益は79億円の赤字(同25億円の赤字)、最終損益は67億円の赤字(同39億円の赤字)だった。営業赤字が続いたことなどで決算短信には投資家に注意を促す「継続企業の前提に関する注記」が記載された。レナウンも新型コロナの影響で3月の既存店売上高が42.5%減と大きく落ち込んだ。

 そんな退潮著しい百貨店業界に、新型コロナが追い討ちをかけた格好だ。一部施設の臨時休業も余儀なくされている。4月10日の東京都の休業要請の範囲に百貨店は含まれなかったが、主要各社とも営業再開には動いていない。世論の反発を恐れたためとみられる。退潮しているとはいえ、百貨店は規模が大きく華やかで、羨望の眼差しで見られる存在だ。一挙手一投足が注目を浴びる。営業を再開したいのが本音だろうが、批判を恐れてそれができずにいる。

 新型コロナの感染拡大は収まる気配を見せない。収束には相当の時間がかかりそうだ。そうしたなか、小売業や飲食店など店舗の営業には世論の厳しい目が向けられている。百貨店に休業要請が出されないとしても、感染拡大が顕著な地域の店舗の営業は当面難しいだろう。

 収束に時間がかかれば、深刻な状況に陥りかねない。営業ができる店舗でしっかりと集客を図り、少しでも多く売り上げなければならない。また、衣料品などのフロアは休業する一方で、生活に欠かせない食品売り場は営業を続けるケースもある。そうした店舗では食品強化が欠かせない。できることをすべて実施し、売り上げ減を最小限に抑える必要があるだろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に勤務。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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