新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、居酒屋が深刻な状況に置かれている。政府や自治体による外出自粛の要請を受け、鳥貴族は国内の直営394店すべてを4月4~12日まで臨時休業する。フランチャイズ(FC)店も運営会社の判断で臨時休業や営業時間の短縮をする場合があるという。
串カツ田中ホールディングス(HD)も4~12日に直営116店すべてを休業する。衛生面に配慮した営業を行い、持ち帰りメニューを強化するなど対策を講じてきたが、客や従業員の間での感染拡大を防ぐために休業を決断したという。
「塚田農場」などを運営するエー・ピーカンパニーも2日から、約180店を休業した。関東の1都5 県の店舗は21日まで、それ以外の店舗は10日か15日まで休業する。
新型コロナの感染拡大を受け、東京都の小池百合子知事は、夜間から早朝にかけて営業する、接客を伴う飲食業の場で感染したことが疑われる事例が多発していると指摘し、都民に対してナイトクラブやバー、カラオケなど「夜の酒場」への入店自粛を要請した。
政府は感染リスクが高まる条件として「密閉空間」「人の密集」「密接での会話」のいわゆる「3 密」を挙げている。都知事はナイトクラブなど夜の酒場は3密が濃厚なかたちで重なる場だと指摘している。
居酒屋も名指しされてはいないが、3密が重なる場といえる。また、政府や自治体は国民に不要不急の外出自粛を呼びかけている。こうしたことから、前述の居酒屋チェーンが休業を決めたことは評価できる。もっとも、当事者たちにとっては苦渋の決断だったに違いない。
鳥貴族と串カツ田中、業績が回復しだした矢先の臨時休業
鳥貴族は業績が回復しだした矢先の出来事だった。17年10月に一律280円(税別)から298円に値上げしたところ客離れを招き、既存店売上高が昨年10月まで22カ月連続で前年を下回っていた。業績不振に陥っていたのだ。ところが、昨年11月から客足が戻るようになった。既存店売上高と客数が昨年11月から今年2月まで4カ月連続で前年を上回っている。
鳥貴族は、これまでに不採算店の閉鎖を進めて採算性の改善を図ったり、メニューの更新頻度をアップして集客を図るなど対策を講じてきた。
今期上半期(19年8月~20年1月)に関しては、メニュー強化と販促が功を奏している。来店頻度の高い顧客を飽きさせないため、2~3カ月ごとに新商品を投入する「今月のオススメ」を導入したほか、一部のアルコール飲料を注文するともらえるチケットを2枚集めると後日一部のアルコール飲料が無料になるキャンペーンを実施し集客を図った。また、直営全店でウェブ予約システムを導入したり食べ飲み放題プランの利用条件を緩和するなどで忘年会や新年会の需要取り込みを図っている。
こうした施策により鳥貴族の収益性は回復した。19年8月~20年1月期単独決算は、売上高こそ前年同期比2.4%減の174億円と減収だったものの、営業利益は3.8倍の13億円と大幅増益となった。売上高営業利益率は2.0%から7.8%に高まっている。
鳥貴族は、このように業績が回復しだしていた。だが、そうした最中に新型コロナが直撃した。この3月、4月は会社や大学の歓送迎会が多くなる時期で居酒屋は書き入れ時だが、これらの需要も新型コロナで減少している。そして鳥貴族は休業を余儀なくされた。3月以降の既存店売上高は厳しい数値が続きそうだ。
串カツ田中HDも既存店の業績が回復しだした矢先の出来事だった。18年6月から実施したほぼ全店での全席禁煙化による喫煙客の流出で昨年までは苦戦が続いていた。当初こそ、取り組みに関心が集まったことや喫煙を嫌う家族客の取り込みに成功したこと、キャンペーンが奏功したことで既存店売上高は前年を上回る月が少なくなかった。しかし、こうした効果が薄れ、喫煙客流出による影響が大きくなってしまった。既存店売上高は昨年12月まで10カ月連続で前年を下回っている。
ところが、今年1月と2月はプラスを確保した。特に1月は前年同月比17.4%増と大きく伸びた。1 月はテレビ番組に取り上げられたことが大きいが、ほかにデリバリーを強化するなどで「中食」需要の取り込みを図ったことが奏功した。昨年12月下旬にデリバリー代行サービス「ウーバーイーツ」の導入店舗を18店から全店舗の7割にあたる87店に拡大している。
だが、こうして業績回復の兆しが見えてきた最中に新型コロナが直撃した。3月が特に深刻で、既存店売上高は22.6%減と大きく落ち込んでいる。串カツ田中も厳しい状況が続きそうだ。
ワタミも200店休業
エー・ピーカンパニーは厳しい状況が続いていたが、新型コロナでさらに厳しい状況に置かれるだろう。主力の塚田農場は本格的な地鶏料理や来店回数によって昇進する「名刺システム」などユニークなサービスが受けてブームを巻き起こしたが、類似業態が増えたり飽きられたりして業績が低迷するようになった。てこ入れを図ってきたものの、今のところ業績回復には至っていない。19年4月~20年2月の既存店売上高は前年同期比2.3%減とマイナスだった。
こうした最中に新型コロナが襲った。昨年12月と今年1月の既存店売上高はなんとかプラスを確保したが、2月は4.8%減と大きく落ち込んだ。本稿執筆時点で3月の数値は公表されていないが、おそらく2月以上のマイナスになるだろう。4月以降も休業などで厳しい状況が続きそうだ。
「和民」や「ミライザカ」などを展開するワタミは「ブラック企業」のレッテルを貼られ業績が低迷していたが、業態転換などが功を奏し、業績は回復しつつある。国内外食事業の既存店売上高は上昇傾向が続いている。新型コロナの感染が広がりを見せた2月も1.1%増とプラスを達成した。ただ、3月以降は厳しいだろう。
そうしたなか、ワタミは集客策を施して、傘下の居酒屋で税別100円のメニューを提供するキャンペーンを定期的に期間限定で販売することを始めていた。3月16日から実施した第一弾では、通常税別699~799円で提供している「本マグロの天盛り」を100円で提供している。その後も続々と100円メニューを投入した。こうした施策を通じて集客を図り、業績の落ち込みを食い止めたい考えだった。
だが、そんなワタミも緊急事態宣言が発令された7都府県の計200店で、4月8日から5月6日まで休業すると発表した。
外食は外出自粛の影響が大きい産業だ。なかでも居酒屋は特に大きな影響を受ける業態といえる。長期的な需要減が避けられないだろう。これから講じる対策ももちろん重要だが、これまでの経営で需要減に耐えられるだけの体力をつけたか否かが問われそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)