米衣料品大手ギャップ(GAP)は、自社が展開するうちの低価格帯ブランド「オールドネイビー」を、日本市場から撤退させると発表した。報道によると、全53店舗を2017年1月までに閉鎖するとのこと。12年7月に日本1号店を開店して以来、約4年で日本市場からの撤退を決めたことになる。
ちなみに、ギャップの上位ブランド「バナナリパブリック」も多くの店舗を閉店するといい、ギャップの世界戦略として米国や中国などに集中する一環とみられる。
激しい競争の中でどう戦うか?
「ユニクロ」やその低価格帯ブランド「GU」、「しまむら」など、日本のみならず、「H&M」や「ZARA」「Forever21」などの海外ファストファッションブランドも、日本市場ではまだまだ人気だ。女子中高生の間で生まれたといわれる、お買い得を意味する「プチプラ(プチ・プライスの略)ブランド」という和製英語までできたくらいである。
そのなかで、なぜギャップが運営するオールドネイビーは苦戦し、日本市場からの撤退に追い込まれたのだろうか。
要因としてはまず、商品を米国から持ってくるのみで、日本市場でのニーズに合うように「カスタマイズ」していなかったことが挙げられるだろう。
ギャップがアメリカンカジュアルを日本に持ち込んだ当初は、日本ではまだ珍しく、ユニクロやしまむらとの差別化もできていただろう。しかも、ギャップよりも安い価格帯の商品ラインナップなので、子連れママたちには人気だった。
しかし、低価格帯でこれほど競争が激しくなってくると、「安いアメリカンカジュアル」だけでは、飽きられてしまう。「サイズも日本人には合わない」といった声があったようで、もともと日本人向けにつくられているユニクロやしまむらには負けてしまう。
それに加え、上位ブランドのギャップも季節ごとにセールをよくやっている。私自身、アメリカンカジュアルが好きで、よくギャップには買いに行くし、メール会員にもなっている。
ギャップはかなり頻繁にセールをやっているし、毎月のように「お買い得」といったメールが来るのも事実である。こうなると、下位ブランドのオールドネイビーも値引きせねばならず、ギャップとの違いも消費者には見えにくくなってしまう。
価格競争に巻き込まれないようにするには?
どの業界でも、売れる市場があるとなると多くの企業が参入してくる。そのあとはお決まりの値引き合戦、すなわち価格競争が待っている。価格競争に入ってしまうと、体力勝負の消耗戦になるため、企業としてはできる限り避けて通るべきである。
価格競争に巻き込まれないようにするためのひとつの戦略としては、ユニークな商品を開発することである。ユニクロのヒートテックをはじめとする、一連の製品がその好例だ。
しかし、外資系企業であるギャップなどは、自社のメイン市場はあくまで自国であり、それ以外の市場での「市場の顧客ニーズに合わせた製品開発」は簡単ではない。
私も、外資系企業のマーケティングマネージャー時代に、本国との交渉に時間とお金がかかることを経験した。
であれば、製品以外の付加価値で勝負することを考えたいところである。
オールドネイビーのケースでは、主要ターゲットを「アラサー子連れファミリー」に絞り込み、店舗でイベントをやり集客し、その時に顧客名簿を集め、有益な情報を提供し続けることでリピートを増やす、といったことであろう。
日本にあるオールドネイビーの53店舗は、都道府県別でみると北海道から沖縄まで、満遍なく展開していたようだが、顧客層から考えると、ヤマダ電機のように「郊外型」に絞り、スペースを大きく取れる店舗で、英語や映画などアメリカと親和性の高いイベントを開催し、子育てに熱心な親にコミュニケーションをとる、といった具合である。
ギャップのような大企業に限らず、価格で勝負すると営業利益を圧迫し、ブランドの見ための価値も下がってしまう。自社の強みが響く顧客層が大事にしているものを提供しつつ、商品を販売する戦略を取るべきなのだ。
個人的には、アメリカに住んでいた時からギャップもバナナリパブリックも好きなブランドなので、なんとかがんばって日本市場で盛り返してほしいものである。
(文=理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)