5月11日掲載の本連載前回記事『「反社会的勢力」三菱自、隠蔽と犯罪を重ね死者続出…消費者の安全より組織的利益優先』で私は、三菱自動車を強く批判し、「自浄力がなく、責任を取って廃業せよ、金曜会など他の三菱グループ企業も支援すべきでない」と主張した。
その後、事態は急転直下、カルロス・ゴーン社長兼CEO率いる日産自動車が2000億円強を出資し、三菱自株式の34%を握り筆頭株主となり、実質的に傘下に収めることが発表された。
ゴーン氏の野望としたたかなアプローチ
発表会見はゴーン氏と益子修三菱自会長により、5月12日に行われた。三菱自の燃費不正が発覚したのが4月20日のことだったから、わずか3週間後の電撃的なディールである。あまりに短期間の展開に、燃費不正問題そのものが「三菱自を傘下に収めるための、両者の事前合意があった出来レースではないか」との指摘も出ているが、ゴーン氏は同日の会見でこう否定している。
「燃費の不正問題が発覚した段階で、こういうことになると予想はしていない。当然、状況把握を待った。そして、益子氏との対話のなかで、今回の資本提携という結論に至った。これまで、互いに信頼を築いてきたなかで、いつかの段階で資本提携を行う可能性は話に上っていたが、今回の事象で加速した感はある」
5月の大型連休中に益子氏と会談を行って、一気に走り出したということだ。やり手で断固とした意思決定をするゴーン氏のことなので、その通りなのだろう。
三菱自の株価も、燃費偽装問題が発覚して急落していた。ゴーン氏としては、問題発覚前より1500億円ほども割安に同社を取得できる状況となっていた。
自主性を重んじるポーズ
ゴーン社長はさらに5月16日に報道数社とのインタビューで、三菱自の再生に向けた課題を「信頼回復が第一だ。三菱自が自ら取り組むしかない」とし、「日産は求められれば支援を惜しまない」と協力の意向を示したとされる。
さらに三菱自のブランドも残し、経営陣も日産からは送り込まないとした。三菱自の相川哲郎社長が5月17日に至り辞任の意向を発表したが、それは通常の引責辞任で日産側の意向ではないとされ、社長職は益子氏が兼任する。開発部門の責任者だけは「三菱自の要請により」(ゴーン氏)送り込む。