これら一連の取り組みを見ると、日産は傘下に収めた三菱自を直接経営するのではなく、少し距離を置いていくやり方を選択している。そもそも出資比率も34%と、過半数までに踏み込まなかった。
相手の自主性を重んじ、自助努力を促す。このようなアプローチを私は「植民地経営」と呼ぶ。私がオランダのフィリップスの日本法人社長を務めていたときに痛感した、ヨーロッパ型の経営の特徴だ。
植民地経営では、傘下に収めた相手方企業に一定の統治を認める、あるいは推奨する。自助努力を親会社はできるだけ助力してあげるという位置にとどまる。親会社を「ヨーロッパの本国」、相手方企業を「植民地」と読み替えれば、ヨーロッパ列強が展開してきた植民地経営の手法となる。
ゴーン社長はレバノン系だが、予備校から仏パリで学びエリート養成大学として知られるエコール・ポリテクニークからさらにパリ国立高等鉱業学校で工学博士号を取得している。フランスの名門企業ミシュランでキャリアをスタートするなど、ビジネス文化的にはヨーロッパ人のそれと考えられる。しかもクラス社会であるヨーロッパの一番上のエリート層に組み入れられた存在だ。
私がフィリップス日本法人社長時代に観察したのは、ヨーロッパ人は植民地あるいは出先企業からの利益吸い上げ、すなわち収奪が実にうまく、洗練されている、ということだ。外見上では、当方は丁寧に扱われ励まされる。がんばれ、しっかり働け、というわけだ。とはいえ、自身が実際に乗り出してくれるわけではなく、手を汚そうとはしない。自分が飼っている豚を一生懸命太らせようとするのだ。
賢いやり方であり、ゴーン氏は何も非難されることはない。
鴻海はシャープを自らの帝国に組み込む
親会社出現ということで話題となっているもうひとつの大企業がシャープだ。こちらは台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業に買収される。鴻海の総帥、郭台銘(テリー・ゴウ)会長のシャープへの対し方は、ゴーン氏の三菱自へのそれとは大きく異なっている。
まず、距離感と節度がないのがゴウ氏のスタイルだ。そもそも買収契約が締結されたのは4月2日で、出資期限とされたのは10月5日であり、出資はまだ実施されていない。鴻海はまだシャープの株主ではない。
それにもかかわらずゴウ氏はもちろん、鴻海側のチームはシャープの工場や事業所に遠慮なく立ち入り、在庫の資料などを精査している。台湾、中国のホンハイ事業所ではシャープ製品の即売会を行うなど、「もうすっかり子会社」という扱いだ。