企業経営には、時として青天の霹靂のような事態が発生する。それは企業にとって好ましいことばかりではない。まさに今、良からぬ事態がジャスダック市場に上場しているプラコーという企業に起きている。
5月27日、「株主提案に対する反対表明のお知らせ」がプラコーから発表された。この発表文は、有限会社フクジュコーポレション(以下、フクジュ)から取締役5名と監査役1名を選任するよう株主提案がなされ、これに対してプラコー側が反対を表明したものだった。
フクジュ側は株主提案の理由について次のように述べている。
「取締役候補者は、いずれも、業績拡大を目的に経営陣と一体となり、(1)主力事業の強化、(2)海外戦略の展開、(3)新領域ビジネスの創造を実践することが可能な人材です。加えて、新領域分野でのビジネスの創造を行い、既存の事業資産を活用しながら相乗効果が期待される新事業を策定し、収益獲得の柱として成長させていく所存です。 取締役候補者は、会社経営の基本方針とされる適正利益の確保と企業の発展、株主への配当を実現して社会貢献できる企業を目指します」
これに対して、プラコー側は反対の主な理由として以下の点を挙げている。
(1)株主提案では、現任取締役が1名も候補者となっていないため、承認された場合には、同社の事業に一切関与した経験が無い取締役のみで経営が行わることになる。
(2)株主提案は取締役候補者、監査役候補者の詳細な略歴が記載されていないばかりか、社内取締役候補者と社外取締役候補者の内訳も明記されていない。
この株主提案には、不可解な点がいくつかある。まず、「業績拡大を目的に経営陣と一体となり」と提案しているにもかかわらず、プラコー側が指摘するように、株主提案では現在の経営陣が一人も残らないのだ。常識的に考えれば、プラコーという製造業で、その業務に携わった経験のない者だけが経営者となっても、企業経営がうまくいくとは考えられない。これは「企業の存続」を前提とした提案とはいえないだろう。フクジュ側にその意思を尋ねたところ、「十分な経営ができるだけの事業の対するノウハウは持っている」という非常にあいまいな回答しか得られなかった。
確かにプラコーは業績が好調な企業とはいえない。配当は無配が継続している。しかし、業績は好転の兆しを見せ、2016年3月期決算では増益転換を果たしている。さらに、17年3月期業績予想では増収・増益を見込んでいる。
業績が悪化している時ならいざ知らず、好転し始めているこのタイミングで、フクジュ側が株主提案を行う理由は何か。
提案してもいない株主還元策
通常は、自らが経営権を握った場合に打ち出す施策や株主還元策などを提案するのが一般的だが、フクジュ側の提案には株主還元等の提案は含まれていない。この点をフクジュ側に確認したところ、「株主提案の中には株主還元策なども含まれている。プラコーが発表文には掲載しなかったのではないか」と回答した。
そこで、プラコー側に株主提案としてどのような株主還元策等が出されているのかを確認したところ、役員改選以外の提案は行われていないことが明らかになった。これは、非常に重大な問題だ。筆者の取材に対して、フクジュは提案してもいない株主還元策などをあたかもプラコー側が発表しなかったかのように虚偽の回答をしているのだ。この点だけでも、フクジュが誠実な態度で、さらには他の株主のことも考えた上で株主提案を行っているとは考えにくい。こうした姿勢は、株主提案がプラコーという企業の発展を目的とするのではなく、単に経営権を獲得することだけが目的ではないかという疑惑を浮かび上がらせる。
今回、株主提案を行ったフクジュは、その経営実態がわからない。代表を務める井出和成氏は、株式市場では「仕手筋」との噂も聞かれる。現在、フクジュはプラコー株20%程度を保有している。さらに、突然、個人大株主として登場したのが平原宏一氏という人物で、8%程度を保有している。
フクジュ側は平原氏について、「以前からの知り合い。今回の株主提案では協力していただくことになっている」と両者が連携していることを明らかにしているが、平原氏とはいかなる人物なのか。
「アーティストハウスという企業をめぐる仕手戦で名前が上がっており、株式市場関係者の間では“仕手筋”と認識されている」(株式市場関係者)
合理性のない新株発行による資金調達
こうして俯瞰してみると、今回のプラコーをめぐる株主提案の実態が浮き彫りになってくる。フクジュ側の株主提案のなかに、そのヒントとなる次の文言がある。
「既存の事業資産を活用しながら相乗効果が期待される新事業を策定し、収益獲得の柱として成長させていく所存です」
プラコー関係者によると、フクジュ側はプラコーに対して、新規事業に打ち出すために第三者割当などによる新株発行などを勧めている。しかし、プラコーは既存事業の立て直しが進んでいる段階であり、新規投資を行ってまで新規事業を打ち出す状況ではない。
なぜ新株発行による資金調達なのか。その合理性も必然性もない。どのような新規事業を行うのか具体的な内容を提示せず資金調達だけを提案するのは、その資金だけが目当てなのではないかとの疑いを抱かせる。
このような株主提案は、およそ企業のためになされたものではなく、その実態は企業の乗っ取りのようなものだと賢い株主は気がつくのではないか。こうした勢力を排除するためにも、株主には賢明な判断が求められるところだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)