5月26日付当サイト記事『新ツタヤ図書館でまた重大問題発覚!中古本を大量一括購入、本をただのインテリア扱い』において、レンタル大手TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する宮城県多賀城市立図書館、通称「ツタヤ図書館」が、通常ではあり得ないような蔵書の大量購入をしていた事実をお伝えした。
今回は、実際にどのような本を蔵書として仕入れていたのかをみてみたい。
下のリストは、多賀城市の選書リスト中に「中古」と明記された合計約1万3000冊の本を出版年度別に分類したものである。
2015年 191冊(1.5%)
14年 1874冊(14.4%)
13年 2013冊(15.5%)
10~12年 4501冊(34.6%)
05~09年 3200冊(24.6%)
00~04年 1008冊(7.7%)
1990~99年 203冊(1.6%)
89年以前 14冊(0.1%)
単独年で、もっとも多いのは13年で全体の15.5%。次いで14年の14.4%。これに複数年の10~12年の34.6%を合わせると、6年未満のゾーンに全体の66%が収まる。意外に新しいものが多いと感じた人も多いはず。
だが、残り34%は刊行から6年以上経過した中古本であり、それが4400冊を超える。
驚くのはまだ早い。多賀城市のこの選書リストで一番注目したいのは、刊行後3~5年の書物が全体の34.6%もあることだ。くしくも、昨年10月にツタヤ図書館として新装開館した神奈川県海老名市立中央図書館におけるデータ(全8343冊中、刊行年が記載されていない1382冊を除く6961冊)をここに重ね合わせてみると、海老名市においても、10~12年発行の書物の割合が34.6%と、多賀城市と同じ比率であることに気づく。
この10~12年発行の書物を3分の1、これよりも新しいものを3分の1、古いものを3分の1などと、全体の目安をあらかじめ設定していたと推測できる。これについて「東京の図書館をもっとよくする会」の池沢昇氏は、次のような見方を提示している。
「この選書リストの年代分布は、古書店の在庫にある年代をそのまま反映しているのではないでしょうか。たとえば、新古書を扱う店で一番の売れ筋は、おそらく13~14年発行のものです。10~12年のものが3割以上あるのは、その年代の在庫が多いからでしょう。
意図が不明な中古本大量購入
さらに池沢氏は、多賀城市のほうが海老名市よりも古い本が圧倒的に多いと指摘する。
刊行後6~10年ゾーンをみると、海老名市が14.5%なの対して、多賀城市は24.6%と10%以上も多い。冊数では、多賀城市は、海老名市の3倍を優に超える3200冊となっている。
逆に、13年以降の比較的新しい本は、多賀城市は31.4%で、海老名市の45.7%よりも大幅に少ない。
「東京の図書館をもっとよくする会」代表の大澤正雄氏は、「もともと、図書館として必要な本はひと通り揃っていた多賀城市立図書館が、移転にあたって5年以上も前に発行された古い本を何千冊も追加購入する意味がわからない」と不思議がる。
池沢氏も、「こんなに大量に、値段のわからない本を入れるというのは信じがたい」とあきれる。
昨年夏、世間が大騒ぎした佐賀県武雄市図書館の「不適切な選書問題」を思い起こしてほしい。埼玉県のラーメンマップをはじめ、10年以上昔の資格試験対策本や確定申告ガイドなど、小説や評論と違って「鮮度が命」ともいえる実用書は、古くなるほど市場価値が極端に低くなる。武雄市図書館では、そのようなクズ同然の本が大量に購入されていたことが明るみに出て問題となった。
そこで多賀城市では、中古本に関してはCCCから事前に選書リストを提出させ、市教育委員会が許可したもののみ購入するという厳重なチェック体制を敷いた。
そのため、個別にリストの中身を見ていくと、とんでもなく時代遅れのクズ本と感じる本は、ほとんど見当たらない。しかし、全体的なデータからみれば、出版年度が古い本は、むしろ海老名市のときよりも大幅に増えているのだ。
不透明な税金の支出
また池沢氏は、「図書館で中古本を買うことは、不正行為の温床となる可能性が高い」と指摘する。つまり、多賀城市は不正行為の土壌を育ててしまったおそれがあるのだ。
ツタヤ図書館における選書問題の本質は、「不適切な本の購入」ではなく「不透明な公金支出」にあるといえる。
武雄市図書館のケースを例にとると、当初、新装開館に合わせて2000万円の予算で約1万冊の蔵書を購入する計画だった。ところが、実際にCCCによって購入されたのは、古くなった実用書など極端に価値の低いものばかりであることが、昨年8月、市民が開示請求した選書リストによって明るみに出た。それをきっかけに、週刊誌をはじめとした各メディアが、同館の仕入れた蔵書の大半が市場価格で100円以下であると報じ、激しい批判報道が起きた。
CCCは同9月10日、当時系列会社だった中古書店のネットオフ(現リネットジャパングループ)から購入しており、当初予算を大きく下回る760万円で仕入れていたことを明らかにしたうえで、「より精度の高い選書を行うべき点があった」と謝罪文を発表した。
それを受けて武雄市は翌11日、予算の差額1200万円余りは「書架の耐震対策に使った」と述べ、不測の事態に備えた対応をしたと釈明した。しかし、市民はこの説明に納得しておらず、今年1月に住民訴訟を提起するに至り、現在も係争中である。武雄市図書館に関しては、昨年7月にも「市とCCCの契約がずさん」として住民訴訟が提起されており、これが2件目である。
池沢氏が危惧する「公正さが保てない」とは、まさにそうした不正行為を疑われる事態を招きかないという意味である。果たして、多賀城市は武雄市や海老名市と同じ轍を踏まずにいられるのかと、全国の図書館関係者たちから注視されていた。
では、多賀城市はこれら中古本をいくらで購入しようとしたのだろうか。
結論は、1冊当たり1000円であった。その金額を聞いたある古書店の店主は、驚きを隠さない。
「すごいですね。5~10年落ちをはじめ、これだけ古い本をそんな価格で売り付けるなんて完全な“ボッタクリ”です」
だが、ツタヤ図書館のあきれた実態はこれにとどまらない。公共図書館を舞台にした史上空前の“古本爆買い”の背景には、さらに秘密が隠されていたのだ。
次回は、驚愕の事実を明らかにしたい。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)