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柏木​理佳​「経済ニュースからみる生活への影響」

中小企業を襲う、コロナ禍後の“長く深刻な不況期”…生き残りに必要な3つの根本的“発想の転換”

文=柏木​理佳​/城西国際大学大学院准教授、生活経済ジャーナリスト
中小企業を襲う、コロナ禍後の“長く深刻な不況期”…生き残りに必要な3つの根本的“発想の転換”の画像1
「Getty Images」より

「今を乗り越えれば、なんとかなる」と思っている人も多いようですが、アフターコロナは、供給ショックにより深刻な不況による深いトンネルに入り込む懸念があることも、視野に入れておく必要があります。中小企業の経営者は、「店を閉める」か「戦略を変更して続ける」かを即決する必要があります。

 中国がいち早く経済回復すれば日本も多少は恩恵を受けやすく、最悪の事態は避けられると思っている方もいるかもしれませんが、国内に目を向けると、人口減少で消費は減るするばかりです。新型コロナウイルス感染により3月だけでも全国の倒産件数は744件にも上り、前年同月比で14%増加、なかでも飲食店が33%も増えています。

 海外では、設立したばかりでも利益が出なければさっさと閉め、少し、経過したら違う場所で再び開業する経営者もいます。経営者が自分の生活費や貯金を崩してまで店を継続しようとする意識はほとんどありません。倒産の前に閉めてしまうほうが、新たな借金をせず自己破綻もしなくてすみます。

 コロナの感染拡大で厳しい経済苦境に陥る可能性があるのは、1)長期休暇などの悪影響を受けやすい労働集約型、2)観光への依存度が高く、3)中小規模の企業の比率が高い国です。労働集約型産業に依存しているのは、バングラデシュ、香港などの東南アジア、チェコやスロバキアなどの中欧です。

 観光業がGDPの10%を超えるのはタイ、フィリピン、マダガスカルで、他にもスペイン、ポルトガル、インド、ベネズエラ、エチオピアが観光収入に依存しています。南欧では非金融部門の人口の8分の1が観光業に従事しています。ちなみに観光客が増えているとはいえ日本は5%程度です。

 日本は観光依存度は低く、労働集約型企業の比率もそこまで高くはありませんが、中小規模の比率が高い国に当てはまります。特に余裕資金のない10人以下の小規模企業が多い国は、経済自粛が続くと回復ができず、倒産件数が増加して経済全体に悪影響を与えます。

 アメリカでは小規模企業の25%が、1カ月分の事業継続費用を賄える貯金さえありません。しかし、アメリカはイギリスと同様に小規模企業の労働者の割合がさほど多くなく、より深刻なのは、50%以上を占めているイタリア、日本です。そして、日本では、すでに後継者不足などにより廃業のほうが、開業を上回っている現象が全産業においてみられます。

 帝国データバンクによると、2019年の倒産は8354件で、特に個人消費の低迷で小売店が1945件で前年同月比7%増加しています。注視すべきは、過去最高の件数になった飲食店の732件です。高齢化により、ますます消費は減少します。特に都市部ではテレワークが進めばオフィス街の飲食店は半分に減っても、需要と供給のバランスが保たれるかもしれません。同じチェーン店のコンビニエンスストアやドラッグストア、ファストフードが徒歩数分以内に数店舗あったり、似たような個人経営の飲食店や整骨院が同じエリアに何軒も集まっていることもあります。都市部では、多すぎる店舗数が過度な競争を生み、結果として十分な収益が確保されないという実態もあります。

 もし事業を継続させたいなら、発想の転換が必要です。これを機会に経営戦略を見直す必要があります。

不況時の経営戦略(1):需要のある地方でニッチな店(希少価値)

 例えば、都市部や繁華街で似たような店が多すぎる場合、いったん閉店して、同じような店が少なく、家賃や仕入れコストが低い地方へ新店舗を出す方法もあります。政府がコロナ拡大が一段落した時に景気刺激策として観光チケットを配布するなら、都市部の人々が地方に遊びに行く動きも広まるかもしれません。

 もし、現状のままの店舗を進出しても、地方で需要がない場合は、今の店を現地の需要に合わせて少しアレンジすればいいのです。金融機関に対して返済が残っている場合でも、賃貸が安くなり、需要のある地方へ移転すると説明すると考慮してくれることもあります。

 例えば、倒産している飲食店をみると居酒屋、焼き鳥、酒場、ビヤホール、フランス料理、イタリア料理などの西洋料理店、ラーメン店、餃子店などを含む中華料理、アジア料理店で全体の半分以上を占めています。一方、天ぷらやとんかつ、すし屋、うどん・そばなどの日本食は、もともとの店舗数が少ないため生き残っています。同じような業種の店が増えると、市場は縮小し、消費者の数が減少しているのにライバルの店が増え、顧客を奪い合うことになります。ですが、その地域に1つしかない店なら、選びようがありません。例えばテナントが1つだけ空いていて、その周辺に類似した店がない場合などが狙いめでしょう。

不況時の経営戦略(2):共同化

 経営戦略として「共同化」があります。例えば、現状の店をライバル社と店舗を共同で利用して家賃を半額にしたり、従業員を時間帯に応じて2つの店で働いてもらったり、仕入れにおいても、原材料を一緒に仕入れると大量に仕入れ安くすることができます。

 例えば、居酒屋と隣のパスタ屋が昼は店舗を昼と夜に時間帯を分けて利用したり、半分ずつのスペースで利用しあうこともできます。大規模にするなら商店街組合などで共同化できる店を募集しあうこともできます。最近、流行りのサブスクリプションも共同化の一種です。東急電鉄などによる電車・バスや自転車レンタルや映画館、蕎麦屋などにおいて、顧客を共同化しようとしています。グループ内に鉄道会社と百貨店を持ち、電車に乗って百貨店に来て買い物してもらうというように同じ顧客に続けてお金を落としてもらう戦略もあります。航空会社のワンワールド加盟方式もそうです。

不況時の経営戦略(3):選択と集中

 経営学者ピーター・F・ドラッカーが提唱した「選択と集中」に従えば、経営が悪化している時は、販売する商品の種類を絞り、それ以外の商品の開発や販売をやめるのも方法の一つです。腐りやすい材料の仕入れや従業員の手間が必要な商品の販売をやめて、店舗を小さくして利益率の高い商品だけに集中して絞るのです。飲食店の場合、メニューが豊富なほうが客には喜ばれますが、手間もコストもかかり利益が出ません。

 また、高い家賃を払うのをやめて、バンのような屋根付き中型車をもっているなら、1種類のお弁当の販売だけに集中させて、飲食店が少ない地域に販売に行く戦略をとる方法もあります。ライバル店が少ない地域ならプラスチック容器代、ガソリン代込みでも多少の利益は出るかもしれません。

 こうした選択と集中により、コスト削減が可能になり、イノベーションや新しいアイデアが生まれやすくなります。デメリットとしては、戦略により絞った商品が、なんらかの影響で売れなくなった場合には、リスクがあることです。その場合に備えるなら、まったく正反対の業種に手を出しておくことです。

 人口減少により消費の拡大は今後も期待できません。需要の多い地域での新たな戦略が問われています。

(文=柏木​理佳​/城西国際大学大学院准教授、生活経済ジャーナリスト)

柏木りか/城西国際大学准教授、生活経済ジャーナリスト

柏木りか/城西国際大学准教授、生活経済ジャーナリスト

生活経済ジャーナリストとして景気の動向や物価、節約などについて伝授。
豪州の大学から香港、中国に滞在。シンガポールでは会社設立に携わる。豪州の大学院にてMBA(経営学修士)取得、研究員を経て嘉悦大学准教授に。育児中に桜美林大学院にて社外取締役の監査・監督機能について博士号取得。
現在:城西国際大学院 国際アドミニストレーション研究科 准教授。NPO法人キャリアカウンセラー協会代表。
大学では「企業戦略」「経営組織論」「キャリア」(日本語)(英語)等の授業を担当。
シンガポールで会社設立の準備に携わり、観光収入の多い豪州・香港・中国に滞在、世界15カ国の人と働く。
国土交通省道路協会有識者会議メンバー。
日本を変えるプラチナウーマン(プラチナサライ小学館)46人に選ばれる。

Twitter:@kashii1218

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