アローラ氏は15年3月期に、契約に伴う一時金を含めて165億5600万円の報酬を得ており、16年同期の報酬額も80億円だった。真相は薮の中だが、これだけ高額の報酬を得ていながら、書簡が指摘するように大手投資ファンドから報酬を得ていたとすれば、孫氏がアローラに不信感を抱いたことも理解できる。
アローラ氏は、米アップルのティム・クックCEOに匹敵する報酬を得ていた。実際のところ、ソフトバンクでの実績は、この報酬に見合うものだったのだろうか。超高額報酬を大幅に上回るインカム(利益の果実)をソフトバンクにもたらしていたのか。
孫氏とアローラ氏は、トップの椅子の禅譲時期をめぐり意見が合わず激しく対立したとみられている。孫氏は17年8月で60歳になる。アローラ氏を引き抜いてから3年の節目でもある。「60歳の誕生日を迎えたらバトンを渡すつもりだった」と語っていた孫氏が、心変わりして「あと5~10年社長をやる」と宣言した。必然的にアローラ氏のトップ昇格の可能性はなくなり、アローラ氏は「新たな道を行く」と述べて孫氏と決別した。
「孫氏を手助けし、グループ変革の種まきができたことは大きな経験だった」とアローラ氏は友好・円満退社であることを強調したが、突然の退任の理由は株式市場にも投資家(株主)にも明確に説明されないままだ。
「一両年のうちに禅譲」を求めたアローラ氏と、「あと5~10年はやる」と意気込む孫氏には、妥協の余地はまったくなかったのだ。
6月22日付日本経済新聞は「今後、孫氏の手足になるのがアローラ氏が米シリコンバレーやインドに残した投資部隊『チーム・ニケシュ』」と報じているが、アローラ氏は兼任していたヤフー会長や米提携電話大手、スプリントの取締役からも退き、顧問という名前が残るだけである。
アローラ氏の退任で、ソフトバンクの投資先の選定は孫氏一流の勘に頼る、以前のスタイルに逆戻りする。
(文=編集部)