証券取引等監視委員会や検察など関係当局は、孫氏が実質的にニケシュ副社長の名前を使って自社株を買い付け、株価の値上がりを狙ったのではないかとみて、内偵調査を始めている模様である。
「ニケシュ副社長が長期にわたって当社の経営に携わる姿勢を示したものです」
ニケシュ副社長の巨額自社株買いについて、ソフトバンク側はこう強調している。
米グーグルから後継者候補として孫氏がスカウトしたニケシュ氏は、6月に副社長に起用されたばかりだが、この株買い付けによってソフトバンクの発行済み株式の0.7%を取得し、個人としては創業者である孫氏に次ぐ大株主となる。
「今回の自社株買いは、ニケシュ氏の依頼を受けた野村證券とみずほ証券が市場から買い付けるが、その購入資金は野村證券がすべて融資しています。孫氏が融資の保証人となり、孫氏が個人で保有する同社株を担保として差し入れたのです」(市場筋)
実はソフトバンクでは、ニケシュ氏による自社株買いを発表する2週間前にも約1200億円を投じる自社株買いを実施したばかりだった。ソフトバンクは米通信大手スプリントを約1.8兆円で買収したが、米国市場で業績不振が続き、そのあおりでソフトバンクの株価も低迷している。「相次ぐ大型の自社株買いによって、株価をテコ入れする狙いがあったのは間違いないだろう」と関係者は指摘する。
「ニケシュ副社長の自社株買いは、社内手続きを踏んで、東京証券取引所にも正式に届け出たもののようです。しかし、実態は孫氏による自社株買いであるにもかかわらずニケシュ副社長名義で買いを実施することは、一般株主を騙すことになるのではないか。不当な株価つり上げといわれてもおかしくない」(関係者)
実際、ニケシュ副社長の自社株買いが公表された後、ソフトバンク株は一時急騰した。その後の世界同時株安で株価も下げたが、それでも他の通信株と比べれば値下がり幅は小さい。
孫氏は以前から、自社株の値下がりに強い危機感を示してきた。なぜそこまで株価に敏感になるのか。
「ソフトバンクは海外企業を積極的に買収して業容の拡大を図ってきたが、買収資金を集める際の担保を同社株にしてきた経緯があるではないか」(同)
株価の値上がりがソフトバンクの成長を支えてきたわけだが、その手法にマーケットが疑惑の目を向け始めたことは、ソフトバンクの成長そのものにも暗い影を投げかけることになりかねない。
(文=編集部)