新型コロナ禍により、各業界でリーディングカンパニーが入れ替わる。3メガバンク体制は15年間続くが、2020年3月期の連結純利益で三井住友フィナンシャルグループ(FG)が三菱UFGフィナンシャル・グループ(FG)を抜くことが確実になった。04~05年の「UFJ争奪戦」で痛恨の敗北を喫した三井住友FGは、両社が最終赤字に転落したリーマン危機の時を含め、連結純利益でずっと三菱UFJFGの後塵を拝してきた。今回、悲願達成である。
19年4~12月期連結決算の純利益で、三井住友FGが三菱UFJFGを抜いてトップに躍り出た。三井住友FGは前年同期比4.2%減の6108億円、三菱UFJFGは同33%減の5842億円だった。この時点で、三菱UFJFGは当初見込んでいた通期の連結利益9000億円を7500億円に下方修正した。三井住友FGは当初見込みの7000億円を据え置いた。日銀のマイナス金利政策の導入など厳しい収益環境を反映して両社とも減益を見込むが、三菱UFJFGが首位を維持する見通しになっていた。
「三菱UFJFGは20年1~3月に逆転することを想定していた」(金融担当のアナリスト)
このシナリオをコロナ・ショックが直撃し、予定は大幅に狂った。三菱UFJFGは3月末、東南アジアの子会社の株価下落を受け、通期の連結決算で約3600億円の損失を計上すると発表。新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な株安の影響をモロに受け、過去に出資したタイとフィリピン、インドネシアの子会社の株価が取得時に比べ50%以上下落したことから、のれん代を一括償却、特別損失を計上した。
具体的には、19年4月に子会社化したインドネシアの大手商業銀行バンクダナモンについて、すでに19年4~12月期決算で2074億円を特損計上していた。3月末になっても株価が低迷したままだったので追加減損が発生し、2128億円の特損が確定した。6800億円で買収したバンクダナモンは19年4月に連結子会社にしたばかりだ。13年に買収したタイ6位のアユタヤ銀行と、16年に発行済み株式の約2割を取得したフィリピン6位のセキュリティバンクでも新たな減損処理が必要になった。
三菱UFJFGは「新興国の高い成長率を取り込む」としてアジア各国の銀行を次々と買収してきたが、コロナで株価が半値以下に崩落。長期戦略が逆回転し、業績の足を引っ張る。4月30日、三菱UFJFGは2020年3月期の連結純利益が前期比40%減の5200億円になりそうだと発表した。従来目標(7500億円)から2300億円減で、再び下方修正したわけだ。
融資先の倒産などに備えて積む貸倒引当金の増加も、350億円の減益要因となる。タイのアユタヤ銀行の株価下落に伴うのれん代の一括償却で1305億円を損失計上する。政策保有株の減損も響いた。海外M&A(合併・買収)で一部保有株の減損処理を迫られるのは三井住友FGも同じだが、三井住友FGは3月決算の着地点を「7000億円にできるだけ近づけたい」(幹部)としてきた。三菱UFJ FGに比べて相対的に傷は浅そうだ。
本業の苦戦
三菱UFJFGの決算が厳しいのは、国内で苦戦しているからである。グループの中核銀行である三井住友銀行と三菱UFJ銀行の融資などの本業で得た利益である業務純益(単独)を比較すれば一目瞭然だ。三井住友銀は4500億円(19年4~12月期)。三菱UFJ銀は3300億円。三菱UFJ銀の業務純益は、みずほFG傘下のみずほ銀行の3200億円に肉薄されていた。三井住友銀は経費率が低く、コストカットを深掘りしてきた効果が出ている。
持ち株会社の三菱UFJFGは社長が交代した。4月1日付でデジタル化担当の亀澤宏規副社長が社長に昇格。三毛兼承社長は兼任していた三菱UFJ銀頭取の業務に専念することになった。亀澤氏は初の理系トップ。歴史的な変革期ということもあって理系トップが誕生した。
三菱UFJFGのトップに「東大・京大出身」「頭取4年間」「企画畑」といった王道ルールが存在する。亀澤氏は、この王道から外れる存在。異例ともいえる人事を三菱UFJが断行したのは、トップに求められる条件や資質が大きく変化したからだろう。
銀行のビジネスモデルは預金を集めて貸し出し、その利ザヤで儲けるというものだった。利ザヤが縮小し、店舗や人員を過剰に抱える余裕はない。並行して、新たな収益モデルの確立を急がなければならない。
三井住友FGの社長に19年に就任した太田純氏もデジタル部門出身であり、3メガバンクの先陣を切った。三菱UFJFGの初の理系社長は、大リストラという超難問と桁違いの“損失爆弾”を抱えての船出となった。三菱グループの落日を象徴するようなメガバンクのトップ交代であることは間違いない。
(文=編集部)