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トヨタや東芝は「三井グループ」なのか?三菱との違い、財閥系企業における社長会の役割

文=菊地浩之
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三井三池炭鉱の経営に成功し、1914(大正3)年以降三井財閥の総帥を務めた團琢磨。1932(昭和7)年3月、いわゆる血盟団事件により命を落とした。(写真はWikipediaより)

どこからどこまでが三井グループか

 雑誌・週刊誌の特集で三井グループ三菱グループの特集が組まれると、トヨタ自動車東芝が三井グループの企業だと分類されていることがある。

 しかし、トヨタ自動車はトヨタグループ(のトップ)であって三井グループ(の一員)ではないし、同様に東芝も東芝グループであって三井グループではない、というのが一般的な認識であろう。ではなぜ、トヨタ自動車や東芝は三井グループ企業に分類されるのだろうか。そもそも、「三井グループ」の定義はなんで、どこからどこまでの企業をその構成員と呼ぶのだろうか。

実は決まっていない「グループの定義」

 三井グループには、三井広報委員会といって、三井グループのことを対外的にアピールする組織があり、ホームページ【https://www.mitsuipr.com】を立ち上げている。ところがそこでは、三井グループがなんであるかが語られていない(すみません。はじからはじまで閲覧すれば、どこかにあるかもしれませんが)。トップページの「当会の概要」には、三井グループの存在を前提として、三井広報委員会の設立目的や活動・理念が語られているが、三井グループそのものがなんであるかは触れられていないのだ。

 なお三菱グループでは、グループのホームページがあり、そこで、三菱グループについて以下のように語っている。

「三菱グループ」の明確な定義はありません。会長・社長の会である三菱金曜会を例にとれば、27社がグループのメンバーということになります。また、共同で広報活動を行う三菱広報委員会の場合は、約40社となります。ここmitsubishi.comでは、三菱グループ会社検索ページの対象となっている約600社の三菱ホームページ委員会会員会社・団体を「三菱グループ」と呼んでいます。三菱金曜会メンバー及びその関連会社により構成されています。
(mitsubishi.com内、「三菱グループとは」のなかの質問コーナーより)

 つまり、三菱グループがなんであるかの明確な定義はなく、そのメンバーの範囲も決まっていないと、三菱グループが認めているのだ。おそらく三井グループも同様に、グループの定義とメンバーの範囲が明確ではないからホームページに書いていないのだろう。

 では、雑誌・週刊誌の特集においてトヨタ自動車や東芝が三井グループ企業だと分類されている根拠はなんなのだろう。

三井の二木会になぜトヨタ、東芝が?

 先述の通り三菱グループのホームページでは、広義には約650社、狭義では三菱金曜会の27社を三菱グループ企業だと定義しており、暗に「会長・社長の会である三菱金曜会」のメンバー27社がグループの代表企業であると示唆している。

 三井グループにも「会長・社長の会」として二木会(にもくかい)がある。実はトヨタ自動車や東芝は二木会メンバーなのだ。だから「三井グループって、どこからどこまでがメンバー企業なのか」と考えたとき、「二木会に入っているから、トヨタ自動車や東芝も三井グループなのかぁ(?)」と分類するしかないのである。

 ちなみに、二木会メンバー、および三菱金曜会メンバーは下表の通りである。

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●「-」は三井財閥の直系会社、準直系会社以外の企業。旧三井銀行(三井住友FG)は1943年に第一銀行と合併し、三井財閥から離れていた。●三菱財閥では直系企業を分系会社と呼ぶ。また、準直系企業には縁故会社、傍系会社、関係会社の区別があるが、ここではひとくくりにした。

 三菱金曜会メンバーがほぼ三菱商号を冠しているのに対して、二木会メンバーは三井商号を冠している企業が比較的少ない。だから、なんとなく納得感がないのだ。

「財閥の復活」運動の一環としての三菱金曜会

 では、社長会メンバーはどのように決められるのか。

 それは、そもそもなんのために社長会をつくったのかという話になる。当然、メンバーは会の設立目的に合わせて決められるからだ。

 三菱金曜会は、1953~1954年頃に設立されたといわれている。日本は第二次世界大戦に負けて、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)によって占領された。占領下の1940年代後半に財閥が解体され、財閥本社は解散、財閥家族および首脳陣は退陣、公職に就くことを禁じられ、財閥内部の役員兼任が解かれてしまった。

 1952年に占領が解かれると、三菱、住友、古河、大倉などの財閥は、財閥を復活させようと社長会を設けて人的な繋がりを復活させ、企業連携を強めていった。

 三菱金曜会の設立もまた、1950年代中盤の「財閥の復活」運動の一環だったというわけだ。特に三菱金曜会は、戦前の財閥本社の重役が、商号・商標管理を通じた旧財閥直系企業の統制を目的に設立したため、三菱商号を冠した有力企業が初期メンバーに選ばれたのだ。

 一方、財閥の復活に消極的だった三井、安田、浅野などの財閥は、1950年代には社長会を設けていない。

 ところが1960年代になると、財閥に代わる新たな「企業の集まり」が日本経済を席巻していく。それが有力銀行を中核とした企業集団である(企業会計でいう企業集団とは別の概念)。ここでいう企業集団とは、都市銀行、総合商社、有力な事業会社などから成るグループで、具体的には三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧の6つのグループがある。

 企業集団の特徴のひとつに、資本系列上の親会社が存在しないことがある。たとえば日立グループのトップ(親会社)は日立製作所であるが、三菱グループにはグループを束ねる親会社(戦前でいえば、財閥本社に値する企業)は存在しない。

 とはいえ、グループの方向性や戦略を話し合う機関が必要だった。三菱・住友グループでは、ちょうど社長会がその場になった。

 そうなると、社長会を持っていない三井グループも対抗上、社長会を設立せざるを得ない。こうして1961年に二木会が結成された。そのメンバーは、三井財閥の直系会社と準直系会社あたりである。

“遠縁”を参加させた三井グループの違和感

 三菱の商号、スリーダイヤ商標は圧倒的に信用力が高い。特に海外での信用は圧倒的だ。そのため、それまで三菱を名乗っていなかった子会社や新たに設立された企業でも、三菱商号、スリーダイヤ商標を希望する企業が後を絶たなかった。

 そこで三菱グループは、売上高や従業員数、規模などに一定の基準を設けて、三菱商号を付与するラインを設けたようだ。三菱金曜会は商号・商標管理の会合として設立されたので、それに合格した企業が新たにメンバーとして追加された。

 1960年代には、グループとしての広報戦略や販売戦略が加速し、三菱商号を冠していない東京海上火災保険、明治生命保険、麒麟麦酒が三菱金曜会メンバーに選ばれた。いずれも三菱財閥の準直系企業だったから、まぁ順当なところだろう。

 三井グループの二木会も1970年代中盤に、トヨタ自動車、東京芝浦電気(東芝)、王子製紙(王子ホールディングス)、三越(三越伊勢丹ホールディングス)をメンバーに加入させている。戦前、日本一の財閥だった三井は、戦後、重化学工業主体の高度経済成長にうまく乗ることができず、三菱はおろか住友に対しても後塵を拝していた。そこで、社長会メンバーに対し、戦前、三井財閥と親しかった巨大企業の二木会への参加を呼びかけ、活性化を試みたのである。

 三菱グループや住友グループでは原則として、財閥時代の直系・準直系企業しか社長会に加入させていない。だから、三菱グループや住友グループでは、社長会メンバーがグループを代表する企業といっても違和感がない。しかし三井グループでは、いわば親戚の集まりに遠縁の有力者を呼んできたので、何かしっくりこない。ちなみに、2016年の「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社)の記事によると、「少なくともこの五~六年、二木会に(トヨタが)出ているところはまず見たことがない」という証言があった。

 そんなわけで、三井の場合は「社長会メンバー=グループの代表企業」という図式が当てはまらないのだが、三井グループの代表企業といえば、社長会メンバーとすることが一番順当であり、ほかの決め方があるわけでもないので、まぁやむを得ないのだろう。

(文=菊地浩之)

菊地浩之

菊地浩之

1963年、北海道札幌市に生まれる。小学6年生の時に「系図マニア」となり、勉強そっちのけで系図に没頭。1982年に國學院大學経済学部に進学、歴史系サークルに入り浸る。1986年に同大同学部を卒業、ソフトウェア会社に入社。2005年、『企業集団の形成と解体』で國學院大學から経済学博士号を授与される。著者に、『日本の15大財閥 現代企業のルーツをひもとく』(平凡社新書、2009年)、『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』(角川選書、2017年)、『織田家臣団の系図』(角川新書、2019年)、『日本のエリート家系 100家の系図を繋げてみました』(パブリック・ブレイン、2021年)など多数。

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