日本銀行が2014年度のGDP統計(内閣府発表)に疑問を呈するレポートを発表し、内閣府が反論したことが話題になっている。日銀がこうしたリポートを出した背景は何か。
この日銀レポートは個人名で発表されており、冒頭に「ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません」という注記がされている。しかし、レポートを執筆したのは日銀調査統計局の人物であり、職務に無関係な「趣味の研究」とはいいがたい。同レポートの背景には、日銀の組織としての意図があるとみたほうがいい。
同レポートは、14年度の実質成長率について2.4%だったと指摘している。政府が公表しているものでは▲1.0%だったので、その差は3.4%と大きい。
レポートでは、税務統計を使ってGDPの推計を行っている。経済学の基本原理として、GDPを生産面、分配所得面、支出面から見ても同じ値になるという「三面等価」が知られている。具体的には、GDPは次の3つの面を持つ。
・生産面からみたGDP
GDPは付加価値の合計であるとして、各生産部門で生産された付加価値の合計
・分配所得面からみたGDP
従業員への賃金、資本家への配当や企業での内部留保、政府への税金などの合計
・支出面からみたGDP
分配された所得がどう使われるかを消費、投資、輸出入に分けたものの合計
政府は主として支出面からGDPを算出しているして、日銀レポートでは分配面から算出を行っている。今回の日銀による算出のポイントは、税務統計が使われている点である。税収は消費増税してもそこそこ好調であるため、税務統計を使うと分配面のGDPは大きくなる。
税務統計とGDPの乖離
同レポートは、黒田東彦日銀総裁が「消費増税しても景気への影響は軽微」と主張してきたことを援護射撃する格好になる。財務省としても、消費増税による景気の落ち込みを否定したいので、同レポートには賛成だろう。
「消費増税して消費が落ち込みマイナス成長になった」というのが、これまで前提とされてきたが、実は消費増税しても景気は落ち込んでいなかったというのだ。「消費増税しても景気への影響は軽微である」と主張してきた財務省の御用学者が聞いたら、泣いて喜びそうな話である。
これまでも税務統計とGDPには乖離があった。納税者がどの程度真面目に申告するかどうかで税収が変わってくるからだ。