生活用品や家庭用電化製品のメーカーとして知られるアイリスオーヤマが、躍進を続けている。同社のホームページでは2010年の売上は約800億円、グループ全体では約2000億円だったが、2019年には約1600億円、グループ全体では約5000億円と、破竹の快進撃を見せているのである。
高コスパな家電ラインナップで存在感を強めている同企業だが、これほどまでの躍進の理由とは? 今回は、そんなアイリスオーヤマの右肩上がりの情勢について、経営コンサルタント・角井亮一氏に話を聞いた。
他メーカーを真似た製品を安価で販売したから躍進した…わけではない?
近年、家電事業で売り上げを伸ばしているアイリスオーヤマだが、その理由はズバリなんなのだろうか。
「家電事業に関していえば、その理由は製品が安価かつ値段以上に高品質な性能によるところでしょう。アイリスオーヤマは2000年代後半から急速に拡大していったLED照明の事業に、2010年から本格参入して、それを足がかりに家電事業に乗り出していきました。当初は大手家電メーカーのような開発ノウハウを持たなかったため、単純かつ安価なものが多かったのですが、2012年の、三洋電機を子会社化したパナソニックのリストラに俊敏に反応し、技術者を大量に採用し、開発における豊富なノウハウを取り込んでいったのです」(角井氏)
かつて日本が経済大国と呼ばれていた当時、世界中で“日本製”の地位を高めてくれた大手家電メーカーをリストラされてしまった技術者を招き入れたということか。ただ、うがった見方をすれば、大手メーカーの類似商品を安価で販売し、そこで蓄えた資金力で技術者たちを引き抜いたという見方もできるが――。
「個人的には他メーカーの商品を真似しているとは思っていません。嗅覚鋭く事業を展開していくなかで、たまたまぶつかった、ということなんじゃないでしょうか。嗅覚の鋭さでいうと、リストラされた技術者たちを引き入れたのも、彼らが近くそうした苦境に立たされるということを事前に察知して動いていたということかと思います」(角井氏)
ホームセンターと共に成長したアイリスオーヤマ、生産性よりも物流優先
角井氏は近年のアイリスオーヤマの家電需要の高まりには、ホームセンターとの密接な関係性も背景にあるという。
「アイリスオーヤマの家電事業が伸びているのは、ホームセンターという主戦場をうまくコントロールしている側面もあります。というのも、アイリスオーヤマはもともと従業員5人のプラスチック工場からスタートした企業です。その後、下請けからの脱却をはかるべくさまざまな商品開発に挑んでいき、そのなかでプラスチック製の植木鉢が大ヒットしました。こうした商品の卸先であったホームセンター業界とは、いわば運命共同体として歩んできたのです。
さらに、卸問屋を挟まず直接ホームセンターと取引をするBtoBな“メーカーベンダーシステム”を築き上げています。これは端的にいうと、アイリスオーヤマがベンダー、すなわち卸問屋業の役割も担うというシステムです。こうした蜜月の関係を続けるなかで、近年は家電に注力して“家電モール”と銘打って、自社ブランドの家電だけを扱うコーナーを獲得するほどになっています。これは、コーナーを持つに足る商品を地道につくり続けてきたことが花開いた、という感じでしょうか。これにより集客率が大きくアップし、近年の爆発的な売上の大きな要因になっているのです」(角井氏)
従来の大手メーカーは家電量販店を中心としており、ホームセンターでの販売に注力していなかったため、アイリスオーヤマは大手がほぼ参入していなかった“ホームセンターの家電需要”を、一気に取り込んでいったわけだ。こうしたホームセンターとの関係など、アイリスオーヤマの強みはその物流へのこだわりにもあると、角井氏は語る。
「アイリスオーヤマは1970年代のオイルショックで、在庫を抱えすぎてしまい倒産寸前にまで追い込まれた過去があります。基本的にメーカーは在庫をためてそれをさばいていくものですが、アイリスオーヤマはこのときの経験を生かし、なるべく在庫をため込まず、注文があったら必要な分だけ作るというスタイルに変えたのです。これは他業種ですが、ファストファッションブランドのZARAと通ずるところがありますね。
こうした意識が発展して、各工場に自動倉庫管理システムまで導入し、いわば“物流センターに工場を作る”とでもいうべきスタイルの確立にまで至りました。これにより、物流コストを格段に下げ、在庫を少なくすることができるんです。
一般的にメーカーはこうした物流より生産性を重視します。つまり、パーツまたは製品ごとに工場を設け、ひとつの工場では1パーツまたは1製品だけを大量に作り、それを物流センターで積み合わせて配送するというシステムですね。こうしたシステムの場合、生産コストは下がるものの当然物流コストは上がりますので、アイリスオーヤマはこうした通例に乗りませんでした。ひとつの工場でさまざまなパーツや製品を作り、一つのコンテナにさまざまなパーツや製品を詰め込むなどした物流優先のビジネス戦略で、フットワークを軽くすることに重きを置いたんです」(角井氏)
同社の肝は、徹底した物流コストの管理と、そこから生み出されるフットワークの軽さにあるということか。
スピード感と柔軟性が生み出す多角化経営こそ、バイタリティの秘訣
アイリスオーヤマのこうした視点こそ、数多くの商品を生み出してきたパワーの源だと角井氏は分析している。
「フットワークの軽さは物流面だけでなく、商品開発でも顕著です。運命共同体であるホームセンターは、園芸、日曜大工、家具、家電、食品と、基本的にあらゆるものが揃います。それに寄り添うアイリスオーヤマも、必然的にさまざまな商品を開発する思考になっていくわけです。よく、“異なるジャンルに手早く参入してくる”といった言説もありますが、そうしたイメージはここに根ざしていることからくる印象なのでしょうね。
そして、そういったスピード感と柔軟性こそ、今後も同社の生命線となるでしょう。同社は毎週月曜日にプレゼン会議を行い、その場で新商品を即断し、それと同時に関係部署がすぐに動き出す“伴走方式”というスタイルを取っています。また、工場の稼働もあえて8割ほどに留め、緊急の需要に応えられる余力を保つなど、市場の動きにすぐ対応できるシステムも確立しています。
実際、昨今の新型コロナウイルス流行を受けて、マスクの生産にいち早く乗り出したほか、体温の高い人を検知するサーモカメラといった、コロナ禍でのビジネスに必要な商品もすでに開発していますからね。ですから、こうしたスピード感と柔軟性も、同社が伸びてきた本質的な理由と言えるでしょう」(角井氏)
同グループの会長・大山健太郎氏は近年、地域貢献で自社ブランドのお米の販売までしているようだ。こうしたアンテナの広さと、そのアンテナでキャッチした情報を迅速に活かすシステムの確立は、辛酸を舐め、その経験を糧にしてきた同社ゆえの強みなのかもしれない。
(文=A4studio)