国税庁は相続税や贈与税の基準となる2020年の路線価(1月1日時点)を発表した。
路線価全国一は35年連続して東京都中央区銀座5の「鳩居堂」前の1平方メートルあたり4592万円だった。バブル直後(1992年)の3650万円を上回った。
今年夏に予定されていた東京五輪・パラリンピックや外国人観光客の需要拡大を追い風に、首都圏では再開発が相次ぎ、ホテルや大型オフィスビル、タワーマンションが林立した。だが、新型コロナウイルスの一撃で宴は終わった。ホテルや商業施設の休業が続き、マンション販売やオフィスビルの先行きにも暗雲が漂う。
コロナの影響で21年3月期は最終減益予想
不動産大手は最高益を更新し続けてきた。20年3月期には三井不動産が6期連続、三菱地所が4期連続、住友不動産も7期連続で最高益を更新した。21年3月期は新型コロナの影響で3社とも営業減益、最終減益を見込む。
三井不動産は連結営業利益が前期比28.7%減の2000億円の見通しを示した。賃料収入の賃貸セグメントで360億円の減収、328億円の減益を見込む。商業施設の休館や、それに伴う家賃の減免などの影響を織り込んだ。
三菱地所は連結営業利益が23.2%減の1850億円を予想。新型コロナで事業利益に450億円の影響が出ると見ているが、このうち商業施設の賃料収入の減少によるものが160億円、ホテル関連で150億円のマイナスを想定している。住友不動産の連結営業利益も12.9%減の2040億円と減益を予想。ホテル・イベントホールなどのマイナス影響を120億円見込んでいる。
【不動産大手3社の2021年3月期連結業績予想】
売上高 営業利益 当期利益 売上高営業利益率
三井不動産 1兆8500(▲2.9) 2000(▲28.7) 1200(▲34.8) 10.8
三菱地所 1兆1420(▲12.3) 1850(▲23.2) 1100(▲25.9) 16.2
住友不動産 8800(▲13.2) 2040(▲12.9) 1300(▲7.8) 23.2
(単位は億円。カッコ内は前期比増減率%。▲はマイナス。営業利益率は%)
商業施設がコロナの影響を最も受ける
コロナの影響がもっとも大きいのが商業施設だ。三井不動産は新型コロナの蔓延で大型ショッピングセンター(SC)「ららぽーと」を一部を除いて臨時休業した。「ららぽーと」「三井アウトレットパーク」といった商業施設の20年3月期の賃貸売上高は2404億円。この10年で2倍になった。全体の売上高の1割強というと、さほどではないように見えるが、大黒柱のオフィスの賃貸収入(3602億円)より、実は存在感が大きいのだ。
大型商業施設が苦戦するなか、アウトレットは好調を維持した。三井アウトレットパークの旗艦店である木更津(千葉県木更津)の20年3月期のテナントの売上高は560億円。19年3月期比3.8%増加した。2~3月はコロナの影響で売上が落ちたにもかかわらず、増収を確保した。
三菱地所の「プレミアム・アウトレット」はテナントの売上高ではなく賃料収入で表示している。2~3月はコロナの影響で客数が減ったが、アウトレットモール事業の20年3月期の営業収益は463億円。前期比3億円の減少にとどまった。
ホテルはインバウンド客が消える
深刻なのがホテルだ。ホテル事業では三井不動産が突出している。三井不動産は「三井ガーデンホテル」「ハレクラニ」など39施設9730室を擁する。「ロイヤルパークホテル」を運営する三菱地所(約3600室)の2.7倍、住友不動産(約2800室)の3.5倍だ。25年には1万5000室程度まで増やす計画を掲げてきた。
21年3月期は休業や宿泊需要の減少で三井不動産のホテルを含む「その他事業」は130億円の営業赤字。三菱地所もホテル事業に150億円のマイナス影響があると見込む。住友不動産もホテルやイベントホール事業で120億円の減益要因となるとしている。
住友不動産は東京五輪を見据え、ホテル開発を加速させてきた。臨海副都心の東京湾岸エリアに大規模総合複合施設「有明ガーデン」を8月までに全体オープンを予定している。ここに入居する「ヴィラフォンテーヌ」ブランドのホテルは1717室。大規模な計画でホテル業界の話題を集めた。
しかし、コロナ禍でインバウンドが消失した。三井不動産はインバウンドが宿泊客全体の4割を占める。なかでも東京は6割強、大阪・京都は5割弱とインバウンドの依存が高い。
東京五輪延期でHARUMI FLAGはどうなる
今年7月に開催予定だった東京五輪が1年延期となった。五輪選手村跡地にできる総戸数5632戸のマンション、HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)はどうなるのか。供給されるマンションのうち1487戸が賃貸、4145戸が分譲である。選手の宿舎として使用した部屋を、五輪終了後にリノベーションする。
三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産など大手10社がハルミフラッグの販売を手がける。分譲住宅については19年7月から販売を開始しており、約900戸の売買契約が結ばれている。入居開始は中低層棟の17棟2690戸については23年3月を予定。五輪終了後に新たに建設される高層棟(地上50階建2棟1455戸)については24年9月を予定していた。
ところが、五輪の延期によって問題が生じた。一部に分譲してしまった中低層住宅について、建物の引き渡しができるのか。東京五輪が来年7月に開催されるという保証はない。2年遅れで開催されたとしたら、引き渡し・入居開始はさらに延びる。
選手の宿舎となる建物自体はすでに完成している。25年3月の引き渡しだと仮定すると、実質築5年のマンションを“新築マンション”として売ることになる。
「中古マンションの価格でしか売れないだろう」(不動産業者)
ダンピング販売すれば、五輪後に暴落するといわれている湾岸地域など首都圏のマンション価格に大きな影を落とすことになる。大手不動産にとってHARUMI FLAGは“疫病神”になってしまうのか。
主力のオフィス市場はテレワークで縮小
三井不動産の株価は7月1日、前日比67円50銭(3.5%)安の1842円まで下落した。6月30日、モルガン・スタンレーMUFG証券が三井不動産の投資判断を3段階で最下位の「アンダーウェート」に引き下げた。目標株価も従来の2000円から1700円とした。不動産株の全体の投資判断を3段階で最下位の「コーシャス」に下方修正し、三菱地所と住友不動産の投資判断をそれぞれ「オーバーウェート」から「イコールウエート(中立)」とした。
“モルガン・スタンレーショック”と株式市場は呼んだが、三菱地所は前日比2.3%安の1565円50銭、住友不動産は3.9%安の2845円50銭の安値をつけた。日経平均株価は前日比横ばい圏で推移するなか、不動産株の軟調ぶりが目立った。
モルガン・スタンレーのリポートは「目先においては景気悪化によるオフィスの解約が増え、その後、2021年からテレワークを導入した企業のオフィス解約が本格化することで、オフィスの空室率は10%まで上昇する。オフィス賃料は20年にも下落に転じ、向こう5年にわたり下落の幅の拡大が続く」と分析した。
オフィス市場が縮小に向かうという見立てなのである。ここ5、6年、わが世の春を謳歌してきた不動産業界は厳しい季節に突入した。
(文=編集部)