体に悪いケーキ等を「たくさん」食べてしまう理由…人々をスイーツに走らせる「正体」
実験は、アイクスリームの味覚テストと称して、被験者にバニラ・アイスクリームを容器から好きなだけすくってもらい、10分間の動画を見ている間に食べてもらうというもので、被験者がすくった量と食べた量を測定しました。このときに被験者に渡した、アイクスクリームをすくい、食べるのに使うスプーン(アイスクリーム・スクープ)が「おもしろ可愛さ」の操作対象で、おもしろ可愛いスプーン(写真1左)と普通のスプーン(写真1右)のどちらかひとつを被験者に渡しました。
分析の結果、被験者がすくった量と食べた量は、おもしろ可愛いスプーンを使用した被験者のほうが普通のスプーンを使用した被験者よりも多くなりました。おもしろ可愛いスプーンを使うことで、おもしろい、楽しいなどのイメージが意識に上り、それらの意識と一致する行動、すなわち快楽や楽しさが得られる快楽的消費(アイスクリームを食べる)が促進されたのです。スプーン自体は実用的商品であり、快楽的商品ではないですが、デザインによって意識が変化したのです。
ネンコブとスコットはクッキーを用いた実験も行っています。実験では被験者に新しいクッキー専門店が開店したと伝え、サンプルとして普通のクッキー(写真2左)、あるいはおもしろ可愛いクッキー(写真2右)のどちらかを見せました。また、クッキー専門店の名称として「クッキー・ショップ」、あるいは「子どものクッキー・ショップ」のどちらかを伝えました。続いて、これから友人と食事をしに行くけれども、体重増加や病気への不安があるため慎重に料理を選ぶという状況を想定してもらい、「味はよいが太りやすい」料理と「健康的だが味が劣る」料理を提示し、好ましさを評価してもらいました。前者の料理は快楽的消費になります。
その結果、「味はよいが太りやすい」料理の好ましさは、おもしろ可愛いクッキーを見せられた被験者のほうが普通のクッキーを見せられた被験者よりも高くなりました。アイスクリームの実験と同様で、おもしろ可愛いクッキーを見たことで快楽や楽しさが意識に上り、それが料理選択に影響を与え、快楽的消費である「味はよいが太りやすい」料理の好ましさを高めたのです。
ただしこの現象は店の名称が「クッキー・ショップ」のときのみに見られ、「子どものクッキー・ショップ」としたときは見られませんでした。したがって、「おもしろ可愛さ」から快楽的消費の促進効果を生み出すためには、「幼い可愛さ」の要素を含めないことが重要といえます。同じ可愛さであっても「幼い可愛さ」では快楽的消費にはつながらないのです。