体に悪いケーキ等を「たくさん」食べてしまう理由…人々をスイーツに走らせる「正体」
プライミングと消費者行動
これらの実験のように、なんらかの刺激によって人の意識や行動を変えるという行為を、心理学では「プライミング」と呼んでいます。たとえば「パリ」という語を見せて、それが単語かどうかを判断してもらい、その後に「エッフェル塔」という語を見せて同様の判断をしてもらうと、判断時間は「パリ」よりも「エッフェル塔」のほうが短くなります【註3】。
単語かどうかの判断は、記憶にある関連知識を想起して行います。最初の「パリ」の判断で意識に上った知識が、そのまま後の「エッフェル塔」の判断にも使われたため、判断が早くなったのです。先に判断した「パリ」は「プライム」と呼ばれ、「パリ」という語によるプライミング効果が、関連性のある「エッフェル塔」の判断に生じたということになります。
つまり、前述したアイスクリームの実験では、スプーンの「おもしろ可愛さ」がプライムになって被験者を快楽志向にし、快楽的消費であるアイスクリームの消費意欲を高めるというプライミング効果が発生したのです。また、クッキーの実験では、クッキーの「おもしろ可愛さ」がプライムになって快楽志向にし、快楽的要素の高い料理(味はよいが太りやすい料理)に対する好ましさを高めたのです。
消費者の意識を変える
以上のことから、消費者が選択時に何を意識しているかによって、選択する商品や消費量が変わることがわかります。買い物時、あるいはその直前の消費者の意識をプライミングによって特定の方向に向けることができれば、その先にある商品の懸念部分の重要度を下げられる可能性があるということになります。もちろん、これは消費者の懸念している内容と程度にも依存します。
ネンコブらの実験を踏まえ、商品自体のデザイン、パッケージ、店内の雰囲気、店員の接客など、快楽的消費と密接に関係するものに「おもしろ可愛さ」という要素を取り入れてみてはいかがでしょうか。消費者は楽しい気分になって快楽的消費に関心を向け、自ら進んでそれらを選んでくれるのではないかと思います。
スイーツのリピート消費
スイーツを消費すると、しばらくはスイーツの消費を控える消費者はかなりいると思います。ラマナサンとウィリアムズは、スイーツ消費後の感情変化や選択行動を分析しており、スイーツに対するリピート消費の抑制は衝動買いをしやすい人よりも慎重な人のほうが強いことを明らかにしています【註4】。慎重な人はスイーツの消費後に後悔や罪悪感が強く生じ、その感情が長く続くためです。つまり、衝動買いをしやすい人はスイーツも衝動的に消費しやすい傾向にあるということになります。