永井 おっしゃる通りですね。商品開発は手段にすぎません。商品開発の目的は、顧客開発です。真冬に出荷される北海道十勝産のマンゴーは、まさにその成功例ですね。夏は冬場に降った雪を貯めておいて冷やし、冬は温泉水を使い、豊富な日照時間を生かして冬場にマンゴーが収穫できるようにしたのですが、おかげで消費者は1年中マンゴーを食べられるようになりました。しかも夏場に出荷する宮崎県のマンゴーとも競合しないのです。
つまり1年中マンゴーを食べられるようになったことで、顧客が増えてマンゴー市場は拡大したわけですね。経営学者のP・F・ドラッカーは「企業の目的は、顧客の創造である」と述べていますが、「十勝マンゴー」はまさに顧客を創造したのです。
――以前から「プロダクトアウト(製品中心の考え方)からマーケットイン(市場中心の考え方)へ変わるべきだ」といわれていますが、顧客開発はこの考え方で取り組むべきなのでしょうか。
永井 自社の商品を中心に考えると失敗しますし、逆に消費者の言いになりになっても失敗します。成功するパターンは、消費者も気づかないニーズをとらえることです。十勝マンゴーは「真冬にトロピカルフルーツを食べたい」というニーズを捉え、薬用マウスウォッシュ「リステリン」は「口臭で人間関係を悪くしたくない」というニーズをとらえました。どちらも、お客さんが気づいていなかったニーズに対応したわけですね。
――そうは言っても、つい商品中心に考え勝ちです。これを避けるにはどうすればよいのでしょうか?
永井 2つの魔法の言葉があります。「そもそも、お客さんって誰だっけ?」「これってお客さんにとって、何がいいの?」。商品開発に行き詰ったら、必ずヒントになる言葉です。
ビジネスで大切なことは、ライバルといかに戦うかではなく、オンリーワンをめざすことです。本書でも中古本販売チェーン「ブックオフ」や「まんだらけ」の例を挙げて紹介しましたが、たとえばこれを考える際には、米経営学者マイケル・ポーターの「5つの力」や、「3つの競争戦略」が役に立ちます。基本戦略は競争に勝つ戦略ではなく、競争を避けるための戦略です。
マーケティングの基本的な考え方が身につけば、売り方も仕事の成果も、大きく変わっていくのです。
(構成=小野貴史/経済ジャーナリスト)
●永井孝尚/ウォンツアンドバリュー株式会社代表
マーケティング戦略アドバイザー。1984年に慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャーとして事業戦略策定と実施を担当、さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当し、同社ソフトウェア事業の成長を支える。2013年に日本IBMを退社して独立。マーケティング思考を日本に根付かせることを目的に、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任。専門用語を使わずにわかりやすい言葉でマーケティングの本質を伝えることをモットーとし、幅広い企業や団体へ年間数十件の講演やワークショップ研修を実施。さらに書籍・雑誌の執筆、メディア出演などで、より多くの人たちにマーケティングの面白さを伝えて続けている。主な著書に、シリーズ累計60万部を突破した『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ(全3巻、コミック版全3巻、図解版、文庫版)、『そうだ、星を売ろう』、『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』、『残業3時間を朝30分で片づける仕事術』(以上KADOKAWA)、『「戦略力」が身につく方法』(PHPビジネス新書)がある。最新著は『これ、いったいどうやったら売れるんですか? 身近な疑問からはじめるマーケティング』(SB新書)
・問い合わせ先:永井孝尚オフィシャルサイト
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