「ハイオク」をめぐる不可思議な業界慣習が浮き彫りになりつつある。毎日新聞は今月20日、記事『ハイオク虚偽宣伝 消費者庁がコスモ石油を調査 景品表示法違反の疑い』で次のように報じた。
「石油元売り3位のコスモ石油がハイオクガソリン『スーパーマグナム』の性能について、少なくとも10年以上、『使い続けるほどエンジンをきれいにしてくれる』などと虚偽宣伝していた問題で、消費者庁が景品表示法違反(優良誤認)の疑いで調査に着手した。関係者が明らかにした。同庁は調査を通告し、宣伝の根拠となった資料の提出などを求めているとみられる」
同記事では、スーパーマグナムが1992年の販売開始以来、汚れを取り除く添加剤が入っていないのに、「清掃剤が添加されている」「エンジン内をきれいにしてくれる」などとホームページ上で宣伝していたと指摘した。事実なら、レギュラーより割高な同商品をあえて選んで給油していたユーザーは到底納得できない話だ。
貯蔵タンクで他社製ハイオクを混合?
だが、ハイオクをめぐる問題はコスモだけではない。コスモ、エネオス、出光・昭和シェル、キグナス石油、太陽石油の大手5社のハイオクについて、毎日新聞は6月27日、記事『ハイオクガソリン、実は混合 独自開発のはずが…20年前から各地で』とスクープした。同記事を引用する。
「石油元売り5社がオリジナルブランドで販売し、業界団体が『各社が独自技術で開発した』と説明していたハイオクガソリンが、スタンドに出荷する前段階で他社製と混合されていることが毎日新聞の取材で判明した。物流コスト削減を目的に貯蔵タンクを他社と共同利用するようになったためだが、各社は公表していない。複数の関係者は『混合出荷』は約20年前から各地で行われていると証言する。高級ガソリンのハイオクは各社の独自製品と認識して購入する消費者も多く、情報開示のあり方が問われそうだ」
石油元売り各社は独自ブランドとして「スーパーマグナム」「出光スーパーゼアス」「α‐100」などさまざまな銘柄を売り出している。いったいこれはどういうことなのか。
「各社とも品質は横並びだから混合でも問題ない」
宮城県仙台市のガソリンスタンド(GS)経営者は、以前からハイオクの混合があったことを認めた上で次のように話す。
「低燃費車が増えたことや、自動車ユーザーの絶対数が減っていることでガソリンの売上が減っています。さらにリーマンショックや東日本大震災などの不況の影響が業界を追撃しました。そうしたなかで元売りは貯蔵タンクや物流の相互相乗りなどでコスト削減を図ってきました。
一方、GS側も地下タンクの設備更新なども経営の重荷になっています。仙台のような地方の中核都市では幹線道路に競合他社のGSが立ち並び、熾烈な価格競争が行われてきました。毎朝、従業員を走らせて他のスタンドの値段を偵察に行き、うちのGSだけが高値になっていないかチェックします。そんなダンピング合戦で体力を削られ続け、廃業する同業者の数はうなぎのぼりです。
レギュラーに関していえば、売上の最前線を担っているGSの絶対数が減っていることから、元売り系列のGSだけでは在庫をさばききれないという実情があるのではないでしょうか。その半面、『ライフラインを維持しろ』という政府の要請もあって、各社の製油所では実需要より多めに生産し、一層、ガソリン余りに拍車がかかっているようです。
そのため、業界で言うところの業転玉(製油所で余ったガソリンを、異なる元売り会社の系列スタンドが購入したり、系列に属さない独立系のガソリンスタンドが仕入れたりすることで、系列店より安い価格で販売する)も増えています。
一方でハイオクは売上の1割以下ですし、あまり利益になりません。うちへの配送前に貯蔵タンクで他社のハイオクが混合されていることは知らされていましたが、元売りの担当者は『混合しても基本的に各社横並びの性能なので、品質にまったく問題はない』と説明していました。
ただ、今回のコスモ石油のスーパーマグナムの件のように一部製品の品質が異なっていたとなると話は別だと思います」
石油元売りの統廃合が進み、業界は寡占状態が続く。ガソリンの安定供給は必要だが、消費者をだますような説明があったのなら問題だ。業界のあり方にメスを入れる時期が来ているのかもしれない。
(文=編集部)