元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな加算税の割合は、「40%」です。
先日、知らない税理士の方から、メッセージを頂きました。「今は、帳簿の保存期間は10年ですよ」という内容です。その理由も添えられた丁寧なメッセージでした。ぼくの過去の記事に、7年である旨の表記があったのでしょう。会社法では、昔から10年の保存が義務付けられていましたが、税法では7年。指摘をされて、「そういえば、税法も10年に変わったな」ということは思い出せましたが、どの記事に書いたかは失念したままです。
通常の法人の税務調査では、5年分の帳簿を見て、誤りや不正があれば修正申告を逍遥(しょうよう)します。そこに、仮装・隠蔽が認められれば、重加算税が賦課されます。さらに、偽りその他不正の行為が認められれば、5年ではなく7年遡及になります。
今回は、無申告だった自動販売機設置の仲介業者が税務調査を受け、偽りその他不正の行為があって7年遡及された話を紹介します。
領収書がないのに経費を主張
ある年の7月、ジュースの自動販売機設置の仲介業者Aに、税務調査が入りました。Aはずっと無申告で、税務調査があっても調査担当者に虚偽の発言を続けたそうです。
Aは、パチンコ店に自動販売機を設置する旨の契約を取り、自動販売機を設置した業者から、販売本数に応じた収入を得ていました。また、契約の見返りとして、パチンコ店経営会社に対し、協賛金を支払っていました。
これらを預金口座から把握した調査担当者は、収入金額について追求したところ、口座への入金には貸付金の返済分が含まれており、一部は収入に当たらない。さらに、領収書のみを提示し、収入より経費が多いと説明した上で、所得がマイナスになったため申告しなかったと主張しました。また、領収書のみを提示したことからもわかるように、帳簿の作成は行っていませんでした。
調査担当者は、調査の結果、入金の全額を収入とし、経費の全額を認めず、決定処分を行って、重加算税を賦課しました。
貸付金が否定された理由については、Aが自販機設置業者との間で金銭の貸付があったという金銭消費貸借契約などの客観的証拠はなく、通常であれば、認識しているはずの貸付金の総額や残額を認識していなかったこと、また、その金額を管理すらしていなかったことが挙げられます。
一般的な感覚として、どうでしょうか。他人にお金を貸した場合、どこかに金額をメモしませんか。「貸した金額はわからない。メモもしていない」という主張には、合理性がないように思えます。
さらに、Aは契約書に他人の名前を用い、借名口座へ入金させ、取引先には仮装した支払伝票を作成・保存させ、誰の収入となるかを偽装していました。
Aは、一見して、自身の所得とわからないように書類やお金の流れに手を加えていたのです。その上で、申告もしていませんでした。
これだけにとどまりません。税務調査が行われることが決まると、所得の有無が容易に判明すると予期したのか、経費を過大に記載した取引記録とメモを作成して、調査担当者に提示していました。所得がマイナスであるかのように見せて、無申告であったことの理由をつくったのです。
所得がマイナスであれば、生活費などはどこから捻出するのでしょうか。また、それだけの経費があれば、経費の詳細も調べます。しかし、領収証はなく、「領収証はないけれど、経費は認めてくれ」と言うのです。
調査担当者も馬鹿ではありません。そのような主張を鵜呑みにするわけがありません。Aの行為は、故意に事実をわい曲しており、その結果、無申告であるため、重加算税を賦課され、さらに7年遡及されました。
調査で7年遡及されることは多くありません。7年遡れば、調査担当者の事務手続きも増えます。Aの行為はそれだけ重大で、金額が大きかったとわかります。税務調査のために、おざなりに書類を偽造するなんて、調査担当者への侮辱です。例外なく正しく申告し、もし無申告で調査があったら、すぐにあきらめて事実を話すのが懸命かと思います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)